-SIDE エイコ-
胡散臭い女というのがレックナートという正体不明な女の第一印象だったわ。
左手に宿る黄昏の紋章を宿して数日、ゼラセというこれまた胡散臭い美女にファールーシュ王子共々引っ張られ、約束の石版とやらの前まで連れて来られた。
ハッキリ言って迷惑よ!
これでも軍師と副軍主として忙しいのよ。
アンタみたいにボーっと石版の前に突っ立っているだけ暇じゃないの。
と心の中でブチブチと文句を零すが、口に出せば厄介ごとが待ち受けてそうなので閉ざしておく。
「異端者が黄昏を宿すとは…」
ブツブツと怨嗟のように呟くゼラセを殴ったらダメかしら?
私だって好きでこんな得体の知れないモノを貰って来たわけじゃないわよ。
ゴドウィンが召抱えていた女王騎士を殺したら憑いちゃったのよね。
私は溜息一つ吐いて心を落ち着けようとした。
が、目映い光と共に現れた不審者のせいで心は荒む一方よ!!
思わず無詠唱で
「朱の天」
発動させたのは仕方ないでしょう。
胡散臭い魔女はキッチリガードしていて無傷だったわ。
「……私の名はレックナート。」
スルーしやがった!
「バランスの執行者、未来を詠み説く者。そして真の紋章を見守り続けた者です。」
胡散臭いオバハンが増えたと思った私に非はない。
「黎明を宿す少年よ、貴方は星を統べ導く導となるでしょう。黄昏を宿す異端な少女よ、どうして貴女の手にソレが宿ったのかは解りません。」
イラっと来るわね。
「…ゼラセ、そこにいるのでしょう?」
ゼラセと呼ばれた漆黒の魔女は顔を諌めた。
ツーカーっぽいわね。
「太陽の紋章について話をしたのですか?」
レックナートの言葉に彼女はNOと短く返した。
「そう、ですか…黎明と黄昏は太陽の紋章と強い絆で結ばれています。」
語り出す彼女に私は白い視線を送る。
そんなの見りゃ一発で解るわよ。
レックナートの頓珍漢な話は続き私は今夜の夕食の事しか考えてなかったね。
にしてもこの不審者、私の事も知っているみたいだし少し絞めましょうか…
一緒に護衛として控えていたベルクートとロイに目配せし、ファールーシュを封印の間からそれとなく引き離した。
「私を知る貴女に聞きたい事があるの。」
移転なんてさせないわよ?
ニコニコと手に持つ鞭を撓らせレックナートの身体に巻き付けた。
隣で驚愕するゼラセはこの際無視しておこう。
「手荒な事をするのですね、異端の娘よ。」
レックナートの言葉に私は嗤った。
「全てを見通せなかったからって八つ当たりかしら?ふふ、あははははは!」
流水を纏わせた鞭はレックナートの魔力発動を封じ込む。
「異端、異端ねぇ…当然でしょう?異端で何が悪いの?」
だって私は死人だもの。
異端でなくて何だというのかしら?
「私が何処からどうやって此処に来たのか貴女は知っているわけだ?」
ギリギリと締め上げれば、レックナートの唇から苦悶が洩れた。
ウットリと愉悦混じりに私は嗤う。
私はまだまだ遊び足りないのよ。
だから貴女の知る全てを全部聞かせて頂戴?
封印の間は禍々しい血(あか)で染まった。
私と盲目の魔女と還る道標(約束の石版)
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