-SIDE サイアリーズ-
女王騎士を廃止した黎明軍。
女王騎士の代わりとなるのは新黎明騎士団。
これを作り上げた少女をサイアリーズは見た。
エイコは、あの時、私達に二者択一を迫った。
ファレナの王族として民を守るのか、家族を守るのか、どちらを取るのか…と。
両方取り戻したいと願うのは、余りにも傲慢で不可能である事だとエイコは教えてくれたんだよ。
あぁ、本当は気付いてたんだけどねぇ…
でもリムも私にとったら可愛い姪っ子なんだ。
いつかあの子が国を背負って立つ日が来るのは解っていたんだよ。
でもさ、こんな形でとは思ってなかった。
ファールーシュの一歩後ろに控えるエイコは、ファールーシュを大事にしていると思う。
リオンがファールーシュを大事にしてなかったわけじゃないんだけどね…
何ていうかさ、ファールーシュとエイコの間に信頼があるんだよ。
過保護なまでに守ろうとするリオンではなく、エイコの方がファールーシュの隣には相応しいと思ってしまうぐらいにねぇ。
魔法という概念の無かったエイコにとって、この世界で覚える事は多かった事だろうね。
「ファールーシュ王子、ゴドウィンがドラードに篭城させないように野戦に持ち込みましょう。」
軍師も兼任しているエイコの知略にファールーシュが頷いた。
「魚鱗から車掛の陣へ、ゴドウィンが動き出したら鶴翼の陣にして攻めます。」
細やかに指示を出すエイコにファールーシュが号令を掛ける。
統率の取れた新黎明騎士団はゴドウィンの軍を押し返していった。
有利と思われた戦場は、ドラードから黄昏の紋章の攻撃によって混乱を極める事になる。
「怯むな!被害状況の報告を急げ!」
混乱した兵士達を一喝し、纏め上げるファールーシュの手腕に義兄上の面影を見た。
「負傷者は一箇所に集めなさい。長蛇の陣に変更します。先ほどの紋章は何度も使用出来るものではないでしょう。その間に負傷者は治療し、後方へ。」
テキパキと指示を伝令するエイコも迷いが一切見られない。
ゴドウィンの兵もまさか自軍から攻撃を受けるとは思ってなかったのか混乱を極めていた。
「ファールーシュ王子、彼等も助けましょう。ファレナの民に違いありません。」
ゴドウィンの兵だからと見捨てようとはしなかった。
女王騎士であったカイルや見習いのリオンでさえ見捨てようとしていたのにも関わらず。
エイコはファレナの民である、とファールーシュとファールーシュに集う兵達を諭した。
レルカーの街のこともあり、民は暴走し篭城しようと固く閉じられていた門は民の手で開けられる。
エイコは黄昏の紋章を奪還すると告げ、ドラードへ少数の兵を連れて突入した。
ファールーシュもエイコと一緒に行動しようとしたけれども彼女に諭され私と共に負傷した兵を労っている。
エイコが帰還するまで気が気じゃ無かったよ。
しかし帰還したエイコの左手に悲しく輝くは終焉を夢見る黄昏の紋章を見て私は絶望した。
何処まで此の少女を苦しめるのか、と。
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