-SIDE ファールーシュ-
「ファールーシュ王子、妹君の戴冠式が間近に迫ってます。アーメスだけでなく群島諸国を敵に回すのは得策ではないかと…此処はゴドウィン側に着かぬよう群島諸国と交渉しましょう。彼等には中立で居て頂かなくてはなりません。」
困ったように微笑むエイコに僕は
「分かった。それでどうしたら良いかな?」
彼女の指示を待つ。
「ニルバ島に使節の一団が停泊していると報告を受けております。相手はスカルド・イーガン提督、ファールーシュ王子が直接向われ交渉されるのが良いでしょう。」
スカルド・イーガンに関しての報告書と同行者リストを手渡してくれた。
過去の経歴から趣味や趣向など細部に亘って調べ上げられている報告書に感嘆する。
本来なら彼女は傅かれて良い身分だろう。
なのに彼女は僕を支え共に戦ってくれる。
「エイコ、ごめん。」
君を巻き込んでしまった事に…
美しい白い手を血(あか)く染めてしまった事に…
僕の傍を離れないで欲しいと束縛してしまう己の醜い心に…
僕は君に謝る事しか出来ない。
そんな僕にエイコは花が綻ぶような微笑みで
「ファールーシュ」
敬称もなく僕の名前を呼んだ。
「私の意思で此処に居て、ファールーシュの力になると決めたのよ。ニルバ島にでも観光に行きませんか?」
気負う必要は無いと告げた。
リムよりも民を取り、僕の心を埋めたのはエイコ。
いつか彼女は元の世界へ戻ってしまうのだろうか?
この内乱に勝つ事よりも僕はその事が心を占めた。
僕はきっと彼女を手放せない。
-SIDE エイコ-
心がやさぐれそうよ、怜悧(れいり)
ダメ軍師と軍師見習いは牢屋にブチ込んでおいたし、元女王騎士とその見習いは一兵卒にしてやったわ。
今頃はレベルアップと交易で各地を周っている事ね。
サイアリーズ殿下は難色を示したけれども、一番苦労を身に染みているファールーシュ王子は何も言わなかった。
元の世界に戻れなかったらファレナ支配でもしてみようかしら?
エストライズからニルバ島へ向い、途中で王族二人が船酔いするというアクシデントがあったけれども何とか辿り着いた。
が、この目の前で起こっている馬鹿らしい珍事件は何かしら?
大灯台に立て篭もった海賊退治にファールーシュ王子が巻き込まれ、大灯台の梯子を上っている私。
立て篭もりド三流の海賊からチンピラと格下げした方が良いんじゃないかしら?
「へっへっへ、綺麗な姉ちゃんが俺達の相手をしてくれんのかい?」
下種な笑い声にエイコ王子含め同行者から殺気が放たれる。
綺麗と称されたベルナデットを庇い私は前に出た。
最近、ストレスが溜まって仕方なかったのよね。
「ひゅー♪」
何故か喜色満面なチンピラに
「海賊を名乗るのではなく、ゴロツキかチンピラに改名しては如何かしら?」
クスクスと鼻で嗤ってやった。
彼等はカッとなって私に襲い掛かって来たけれど私が獲物を抜くまでも無く地に沈める。
肋骨の2,3本ぐらいは折れてるんじゃないかしら?
呻く彼等を余所に私達は大灯台を後にする。
その数時間後にまた事件が起きるのだけれども今度はファールーシュ王子が激怒しちゃってね、海賊達を血祭りに上げたのは此処だけの話。
提督とはゴドウィンに協力しないと約束を取り付け、ベルナデットは黎明軍入りした。
期限付きの私がファールーシュの剣なら、ベルナデット、貴女が盾になりなさい。
だって貴女はファールーシュの叔母でしょう?
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