-SIDE エイコ-
リムスレーア・ファレナスの戴冠式が催されている。
一部を除いて、鎮痛な面持ちを隠せないでいた。
ファールーシュ王子殿下、サイアリーズ殿下は複雑ながらも割り切ったのでしょう。
家族を取ると言われたら即刻私は国外へ逃げるつもりだったもの。
ゴドウィンに加担しようとは思わなかったけれども…
ふふ、それにしても元老院の腐れ爺には退場して貰わないといけないわね。
私は大広間から踵を返し、探偵の元へ向った。
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-SIDE オボロ-
エイコという少女の過去は一切明らかにされていない。
セラス湖の遺跡から現れたという。
しかし唯の少女ではない。
身のこなしは一軍を率いる将として相応しく、実際に新黎明騎士団の騎士団長を勤め上げていた。
また、彼女は高度な教育を受けているのか、政にも精通し、政務者としても有能といえる。
内乱で民の反感を一気にゴドウィンと新女王へ向けさせた手腕は感嘆に値した。
ファールーシュ王子殿下の名の元で打ち出された政策の半数以上は彼女が関わっている。
「オボロさん、依頼に参りましたの。」
ニッコリとたおやかに微笑む少女が、戦場では戦女神と呼ばれる程の実力者である事を私は知っていた。
「どのようなご依頼で?」
私の言葉に彼女は嫣然と笑みを浮かべ
「新王女様への贈り物に毒を仕込んで下さいな。」
似つかわしくない台詞を述べた。
「女王陛下を暗殺されるおつもりで?」
そう聞いた私の問いにエイコさんはコロコロと笑い
「いいえ、殺虫剤を撒くだけですわ。」
邪魔な元老院を処分すると暗に告げる。
「貴女は、何が目的なのですか?」
彼女が敵に回れば厄介な事この上ないでしょう。
彼女の思惑が解らないけれど、ファールーシュ王子殿下を仇なす事はないと何故か確信出来た。
「これでも私、人の上に立ってましたのよ。一つの言動・行動・態度で私を支える者達の人生を左右する事ぐらい理解しています。だからこそ幼いとはいえ、新女王陛下に失望しているの。」
ポツポツと語り出されたエイコさんの表情は憂いを帯びていた。
異界の女王と噂は真実なのかもしれない。
彼女は遠いこのファレナで自国の国民を案じているのだろう。
内乱に巻き込まれた被害者でもある筈なのに此の国の民を案じる彼女は正に聖女と言えた。
「そのご依頼、謹んで御受けいたします。」
成り行きでファールーシュ王子に協力する形になったが、私はエイコ様に忠誠を誓おう。
元老院の重鎮の三人が新女王暗殺未遂の為、戴冠式から半月後に処刑されたという。
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