-SIDE ファールーシュ-
エイコに現状がどれだけ危ういのか告げられた。
民の住まう街中で戦闘になり、あまつさえ民を守る為の女王騎士が民が住まう街に火を放ったのだ。
ゴドウィン側だからと楽観視していた僕がどれだけ甘い考えだったのかを知る。
民は冷静になれば何故と疑問を抱き怒りを抱く事になるだろう。
僕はゴドウィンを倒せば、リムを取り戻し元のとは言えないけれども明るい未来が待っているのだと信じていたんだ。
思い返せば、見習いとはいえ僕よりも弱い護衛。
腕は確かだけれども女癖が悪くて評判の女王騎士。
軍資金調達する為に奔走しているにも関わらず、湯水のように贅沢三昧する軍師。
正直、エイコがいなかったらゴドウィンに滅ぼされるよりも前に自滅しているのがオチだったかもしれない。
ファレナの民を取るか、リムを取るか…
エイコは僕が迷っていても決して答えを急かさなかった。
ファレナの民を捨てて、リムを取ってもエイコは責める事はしないだろう。
「ファールーシュ王子、準備が整いました。」
青を基調とした騎士姿に思わず見惚れてしまった。
「エイコ、似合ってるよ。」
エイコは花が綻ぶようにフンワリと笑う。
エイコは、元の世界では王族か…それに繋がる高貴な身分なのだろう。
その手を血(あか)く染める必要はないのに彼女は戦場に立つ事を選んだ。
紋章の導きだと人はいうけれど、僕はそう思わない。
凛と伸ばされた背筋は、真っ直ぐと未来を視ていた。
大丈夫、まだ立っていられるのだから。
大広場に集まった青い騎士服を纏った彼等は僕に膝を折った。
エイコが前に進み出て、流れるような臣下の礼を取る。
「黎明の騎士団長、エイコはファールーシュ王子殿下の剣とならん。我、常にファールーシュと共にあり、あだなす刃を防ぎ、邪悪なる者を退けん。たとえ我が羅針儀失いても、万里の波濤越えようとも、汝と永き航海を共に…」
それはとても神聖で、心強い味方が誕生した瞬間だった。
「許す。その剣を私に捧げ勝利を共に齎そう。」
君の心に応える為、ファレナの民を守る為、僕は宣言する。
今日この日を以て女王騎士が廃止され、新黎明騎士団が設立された。
ファレナの大河を連想させる青。
それは僕の騎士の証。
そして最愛の妹との決別の証。
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