-SIDE エイコ-
レルカー攻防戦から私はファールーシュ王子の信頼を得た。
自軍がどんだけヤバイか切々と説けば、ファールーシュ王子も薄々とではあるが危惧していたようで今では護衛見習いのリオンを差し置いて私が彼の傍にいる。
ファールーシュ王子は厄介ごとを惹き付ける人間なのかしら?
次々と舞い込む厄介ごとに私達は頭を抱えた。
何でもセーブルに山賊王子がいるんですって。
サイアリーズ殿下やリオンは烈火の如く怒り狂って絞めると息巻いていたけれども当の本人は傍観に徹していた。
にしてもこのクソ忙しい時期にセーブルに出向くって…戦争を舐めてるのかしら?
そんなこんなで半場引き摺られるように私とファールーシュ王子はセーブルへ向う事になった。
ボズ・ウィルド卿が民がいる前で『王子殿下!?何故此処に?』と大声で叫んだのが決定的になったそうなの。
ハッキリ言うわ。
馬鹿でしょう。
私とファールーシュはお互い顔を見合わせ溜息を吐いた。
山賊王子の根城である乱稜山へ向う。
相当ファールーシュ王子と偽者が似ているのでしょうね…
彼等の仲間も間違えているぐらいだもの。
まぁ、直ぐに戦闘になってサイアリーズ殿下とリオンが伸してしまったのだけれども。
洞窟の奥でゴロゴロと寛いでいた山賊に私を含めパーティ全員が驚いた。
うん、似ていると思う。
でも雰囲気がねぇ…
フルボッコにすると息巻いていたサイアリーズ殿下は、ファールーシュ王子と同じ顔の彼を見て動揺しているわ。
まぁ、可愛い甥っ子と同じ顔をフルボッコは難しいでしょうに…
「あーあ、バレちまったかー」
ダルそうに私達を見る彼に
「何が目的でこんな事を?」
冷静に尋ねるファールーシュ王子。
嫉妬と羨望と妬みが入り混じった眼で
「あーテメェみてーな微温湯の温室育ちの王子さんのお綺麗な顔に泥を塗ってやりたかっただけさ。」
ハっと鼻で嗤った。
愛憎渦巻く魔窟といえる王宮で、ましてや王位継承権などないファールーシュ王子の風当りは強いものだろう。
光と闇を見ているからこそファールーシュ王子は彼の言葉に動じなかった。
問題は護衛見習い!!
「何なんですか!貴方みたいなのがファールーシュ王子に似ているわけがありません。貴方みたいに卑しい顔をしてません。育ちを理由にする最低な賊と一緒にしないで下さい!」
正論ではあるが、正義ではない。
少年がプッツンと切れる前に私がリオンを殴り飛ばした。
久しぶりにプチっとキレてしまいましたわ。
ギっと私を睨み付けるリオン、呆然とするファールーシュ王子達に構わず
「確かに彼等は法を犯し罪を償わなければならないでしょう。ですが、貴女のように恵まれた環境で育った者が彼等の生き様を侮辱する事はなりません。彼等から選択肢を奪ったのはファレナ女王国であり、セーブルに住む大人達です。私は罪を犯した彼等を庇うわけではありませんが、彼等のような子供達を生み出したのは紛れも無くファレナ女王国だと云う事を理解なさい!手を差し伸べて貰えたお前が卑しいと蔑む事は断じて赦しません。手を差し伸べれば彼等も法を犯す事のない全うな人生を歩めたのです。その選択肢を潰したのは周囲の大人なのですよ。」
溜りに溜まった鬱憤を吐き出した。
こんな甘ったれに言われたくないわよ!
私は少年に向き直り
「彼女の非礼を詫びます。しかし貴方がした事は多くの混乱を招き、多くの死者を出す所だったのです。そして貴方が思う王宮の暮らしは常に命と隣り合わせで、ファールーシュ王子はいつ暗殺されてもおかしくはない世界。どちらが倖せか等と比べようがないのです。」
溜息を吐き諭す。
此処でブチのめすのも良いのだけれど、これだけ似ているのだから影武者として役に立って貰いたいのが本音。
「ファールーシュ王子、サイアリーズ殿下、業腹だとは思いますが彼の処遇を私に一任して頂けないでしょうか?」
ニッコリとお願いをすれば
「仕方ないねぇ…」
「そうだね、エイコに一任する事にするよ。」
アッサリと了承を貰えた。
その後、王子に扮して盗賊をした理由と黒幕を聞き出し誘き出す作戦が立てられ、決行。
うん、頭の足りないお坊ちゃんことユーラム・バローズの策略に王族二人は溜息を吐いていた。
こうして盗賊王子事件簿は幕を閉じた。
-SIDE ロイ-
微温湯に育った温室育ちの王子さんの偽者として俺は、ある貴族のボンボンから依頼を受けた。
一重に嫌がらせをしたかったに過ぎない。
俺と似て、それでいて違う環境に育った奴。
ゴドウィンもバロウズもどうでも良かったんだ。
しっかし本物の王子さんが乗り込んで来るとは思わなかったんだけどな。
ぞろぞろと女を引き連れて乗り込んで来た時は良いご身分だと思ったぜ。
まぁ、ムカツク女がいたけどよ。
王子さんに似ていると言われていたけどさ、人の顔を見て卑しいって何だ。
国が、街の大人が孤児の俺達に何をしてくれた?
こっちの苦労も知らないで、優劣を決める女に腹が立ち喧嘩でも吹っ掛けてやろうと思った矢先に一番大人しそうな女が卑しいと発言した女を殴り飛ばした。
俺達が思っていた言葉を代弁してくれた事にはビックリしたぜ。
上流階級のお嬢さんとしか思えなかったからな。
その後はとんとん拍子に王子さんの影武者になる事で贖罪と相成った。
それを取成したのもエイコという女のお蔭だ。
惹かれたのは真っ直ぐと見るその瞳。
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