-SEID 矢神姫華-
どうして私はこの女(ひと)とお茶をしているのだろう?
「おや?君は紅茶は好みではなかったのかい?」
艶やかに微笑む女(ひと)は、とてもこの世界の美を集結させたような人だった。
「い、いえ、大変美味しいです!!」
慌ててカップに入っていた紅茶を一気に飲み干せば、彼女はクスクスと楽しそうに笑う。
「あ、あの…どうして私を??」
立海の女王と呼ばれる山田栄子先輩は雲の上の人だ。
そんな私がこうして一緒にお茶をするなんて天地が引っ繰り返っても有り得ない事だと思う。
考えても全然分からない栄子先輩の思惑に私は内心ビクビクと怯えた。
「私の友人にね、君からアル事を聞きだして欲しいと頼まれたんだよ。気を悪くしたらゴメンね。」
ニコニコと告げる栄子さん。
噂は嘘だけど、でも幸村先輩達とは確実に仲良くなっているのは確かだ。
「それってファンクラブの人ですか?」
此処は重要だと思うの。
だってファンクラブだったら絶対に嘘だって暴かれる!
ううん、嘘が本当になる前だったら大丈夫だけど、そんな大きいリスクは負いたくない。
私はカラカラと乾く喉をお代わりした紅茶で凌いだ。
それでも喉の乾きは消える事はない。
「ふっは、あははは!ファンクラブ、ね…全然違うわ。だって知りたいのは男友達だもの。君は有名だから、ね?」
嫣然と微笑む山田さんに私は恥ずかしさで顔を赤くした。
男友達って事は私の事が好きなのかな?
物凄くモテるって事はないけど、小学校の頃は告白とかもされたし…
「えっと、そうなんですか?」
「えぇ、そうなの。教えてくれないかい?」
「付き合ってるって噂は本当、です。」
本当は嘘だけど、でも相手が男友達って事なら大丈夫よね?
山田さんは、私の言葉に
「そうなの。今は幸せ?」
やっぱり綺麗な笑みで問い掛けた。
「はい!物凄く幸せです。」
付き合ってないけど嘘を真実にする事が私なら出来る筈だもん。
だから私は嘘を吐いた。
その日を境に栄子さんと一緒に過ごす時間が多くなっていった。
栄子さんの名前は絶大で、一種のステータスとも言える。
私は私の役に立つ年上の友人を得た…
つもりだと気付くのは全ての事が終わってからだった。
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