噂は瞬く間に立海中に広がっていった。
その信憑性も…
矢神姫華と一緒に幸村がいる事が決定付けたと言っても過言ではない。
但し、幸村と彼女が本当に付き合っていないのは一部の人間のみが知るところだ。
「全く面白いものだねぇ。」
矢神姫華と幸村を見て私は嗤った。
「栄子様、またお遊戯ですの?」
怜悧は悪い癖ですね、と呆れて溜息を零す。
「ふふ、娯楽が少ない世の中が悪いのだよ。」
どこぞの中二病な発言を態としてやれば
「オタクでもゲーマーでもヒッキーでも中二病でも良いですからサッサと仕事をこなして下さいまし。」
50aもある書類の束を置かれた。
最近、私に対して容赦が無くなったというか、遠慮の欠片すら見られなくなったというか…
慣れとは恐ろしいものね。
「怜悧、お前は私を殺す気なのかい?」
ジトリと彼女を見やればシレっと涼しい顔で
「まさか!生かさず殺さずが、わたくしのモットーでしてよ。」
鬼畜発言をした。
私と同類なだけあって人使いが荒いわね。
「人はそれを飼い殺しと言うのだけれども…ね?」
小さく不満を漏らせばクスクスと上品に笑う怜悧に私は渡された書類を片して行った。
書類に没頭すること数時間、まだ終わりが見えない。
凝り固まった肩を叩いて一息休憩でも入れようと簡易キッチンに向かえば、テニス部の親衛隊の子が窓の下で騒いでいた。
噂話に耳を傾ければ
「ねぇ、矢神姫華って他のレギュラーとも遊んでいるらしいよ?」
「うっそ!?サイテー」
「それって本当の情報?」
「うん、私の友達が矢神と同じクラスなんだけど凄く自慢してたってさ!」
あらあら、矢神姫華は王子様の一人では飽き足りなかったのかしら?
珈琲を入れる手を止め噂話に耳を傾ければ
「あの程度の顔で幸村先輩の隣に立つのもムカツクのに何様のつもりよ!!」
「お姫様を気取ってるんじゃないの?」
「はぁっ!?レベルが天地もあるじゃない!!」
反感は絶大のようね。
うふふ、これで本当は幸村が矢神と付き合ってない事実がファンクラブに知れたらどうなるかしら?
火にガソリンを注ぐようなモノは明白ね。
私は珈琲を片手に執務室へ戻った。
携帯を取り出してメールを送りつければ、直ぐに返事が返ってくる。
ねぇ、矢神姫華ちゃん。
貴女の天運と私の策謀のどちらが抜き出ているのか勝負しましょう?
私は知りたいの。
だって貴女って私に似ているんだもの。
まるでこの世界に生きていないように見えるから、ね?
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