順調、順調過ぎて笑いが込み上げる。
我慢、我慢。
此処で爆笑したらただの変な奴だ。
神崎メイルは女子生徒から無視をされ、男子生徒(一部除く)からは敬遠されている。
ジャッカル桑原に関しては、頑張って就職した父親がリストラされ家計は火の車。
就職先を探そうにも雇ってくれる会社はない。
私が手を回したからだ。
学校を辞める寸前のジャッカルに私はそろそろかと薄く口端を上げる。
資料室にジャッカルを呼び出した私に対し、彼は覇気がない。
「何のようだよ。」
神崎を虐めた張本人と云うこともあってジャッカルの態度は刺々しい。
私は(爆笑しないよう)努めて冷静に
「私の会社でね、ポルトガル語を話せる人材がいないのだよ。そこで君のお父さんに助力を願いたい。」
簡潔に要件を申し出た。
予想外の言葉に一瞬唖然としたジャッカルだが
「山田、それで俺を懐柔するつもりかよ!?」
怒りを露にする。
「懐柔?馬鹿らしい、私は君達には興味がない。ポルトガル語を通訳出来る人材を雇うにしても即戦力にならない奴等が直ぐに見付かるとでも?だけど、勝手に君の家庭事情を調べたことは謝罪する。申し訳なかった。」
頭を下げる。
誰かを虐める奴が簡単に頭を下げるとは思っていなかったのだろう。
「…っ、お前は神崎を虐めたんだろ?何で簡単に頭を下げるんだよ。」
家の事情、良識、仲間を思う気持ちが入り雑じり困惑しているジャッカルに
「私は一度も彼女に暴力を振るった覚えはない。誰かを嫌いだと公言することは虐めなのか?」
真っ直ぐと目を見て話した。
「助力を願い出る相手に誠意を見せるのは人として当然では無いのだろうか?君のお父さんの力を貸して頂きたい。」
綺麗な言葉を並べジャッカルを惑わす。
ふっは、案の定、ジャッカルは
「それは山田の会社に親父を雇い入れると思っても良いのか?」
引っ掛かってくれた!
チョロいものだ。
「ふふ、勿論だとも!初任給は30万だが仕事の出来次第で昇給する。桑原君やご家族の学費などは我社で負担させて貰うつもりだ。」
ニッコリと好条件を提示する。
「おい、給料だけでも高いのに俺達家族の学費を負担はおかしいだろ!?」
慌てるジャッカルに
「ヘッドハンティングする側としたら安いぐらいだ。それに桑原君にはテニスプレイヤーとして我社に貢献して貰いたい。無論、テニスに関する全ては負担するつもりでいる。私は君のテニスの可能性を買いたい。駄目だろうか?」
ツラツラと尤もらしい理由を述べる。
「勿論、返事は今すぐで無くて良い。3日以内に名刺に書いてある連絡先にこの話を受けるかどうか連絡して欲しい。私としては、受けて欲しいのだけれど…」
ニッコリと笑い名刺を渡して資料室を出た。
ま、君には連絡するしか選択肢を与えていないのだけどね。
クスクスと私は未来を描いて嘲笑(わら)う。
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