急に熱が褪めると云う状況に当て嵌まるのではないだろうか?
神崎メイルのどこが好きじゃったのか疑問に思う。
山田栄子のアノ表情(かお)を見たからか、神崎に対する関心が薄れた。
狂気と興味と侮蔑が入り雑じった眼に心奪われたんじゃ。
聖母マリアみたいな女よりも悪女と名高いC・ターナーのような山田が好みじゃ。
凛とした雰囲気を醸し出し、シャンと綺麗に背筋を伸ばし窓際に座る山田に見惚
れた。
携帯を操作し終わったのかパチリと閉じ、惚れ惚れするような笑みを浮かべ
「私に何かご用かしら?」
鈴の音を転がしたような声。
妖しさを含む艶を帯びた瞳。
欲しいと思った。
「おまんは誰じゃ?俺の知っとう山田栄子とは違う。」
そんな下らない事を言いたい訳じゃないのに口が滑る。
余程テンパっていたんだろう。
失望されないか後悔した。
「そうかな?そうだね。でもどうだろう!?だって、銀髪君と話をしたのは今日が初めてだ。だからね、銀髪君が私を知らなくても当然なのだよ!」
クツクツと艶然と笑う山田に俺の胸は高鳴る。
気分を害した様子もない事に安堵した。
「ふふ、知ってはいるだろうが私の名前は山田栄子だ。銀髪君と呼ぶのでも構わないが、出来れば名前を教えてくれるかい?」
甘い溶けるような声で問い掛けられた。
ゾクリと来る。
「銀髪とは酷か、俺は仁王雅治なり。」
「仁王雅治、ね。さて、仁王は何を知りたいのかしら?」
猫のようにニンマリと細めた眼は有無を云わさない。
「山田は何がしたいんじゃ?」
力になりたい。役に立ちたい!そんな気持ちが溢れ出す。
山田は俺の気持ちはお見通しなんじゃろう。
「貴方達のお姫様を再起不能にしたいのよ。噂を現実にしてあげるわ。あは、軽蔑した?」
クツクツと悦を含んだ笑いに俺は見惚れた。
「いんや、寧ろ興味を持ったナリ。」
人として最低じゃろうが、目の前の女ほど怪しく美しいものはない。
陶磁器のような白い手が俺の頬を撫で
「お姫様を消しちゃう魔女に興味を持つなんて、奇特なのね。」
山田は俺の首に腕を絡め睦事を囁くように
「裏切ったら殺すわよ。んふ、覚悟があるなら …にいらっしゃい。手を引くなら今の内よ。」
警告した。
スルリと身体を離し、山田はその場を後にした。
「冷酷なんじゃか、優しいんか、面白い女ナリ。」
嘗ての仲間と神崎を取るなら傍観してろと忠告する。
欲しいと思うが恋愛の情ではない気持ち。
だけど今はと注約が付くだけで、俺が山田に惚れる可能性は高い。
面白い事になったと俺は笑った。
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