神崎が立海から姿を消して一月が経過した。
相変わらず栄子の周囲には人が沢山いる。
栄子にとって神崎は良い暇潰しにでもなったんじゃないかな?
俺にとっては、栄子と接点を持てた事の方が嬉しいからね。
それにしても異端に気付かずにずっと過ごしてたらどうなっていたんだろう?
考えるとゾッとするよ。
でも考えずにはいられないんだ。
狂って行く仲間をずっと見ているだけになるんだろうか?ってね。
「どうした精市?」
柳の声に俺は
「あぁ、神崎の異常に気付かずにずっと此処に居座っていたらどうなっていたかな?って思ってさ。」
そう言うと柳は
「制裁と云う名の傷害事件を起こして廃部にでもされてるんじゃないか?」
と答えた。
廃部かぁ…
「栄子と会った時も警告と云う名の制裁をしに行く予定だったろ?もし、あそこに居たのが栄子じゃ無かったらきっと、そうなっていたんだろうな。」
実際、神崎のせいで男子テニス部は大きな被害を被った。
神崎の発信する電波に引っ掛ったとは云え、腑抜けになった奴は多い。
栄子の取成しが無かったら今頃廃部だっただろう。
栄子がどんな意図を持ってして大会に出れるように進言したのかは不明だが、きっと彼女は答えてくれないだろうね。
「また部長業に専念しないとダメなのかー」
俺の呟きに柳が
「精市、お前…半分遊んでいたのか?」
呆れた顔をして俺を見た。
「別に遊んでいたわけじゃないよ。ただ栄子が貸してくれたテニススクールにまた行きたいな〜って思ってさ。」
表向きは休部だが、殆どスクールで部活していたようなものだしね。
特に2年なんてグングンと成長していると思うよ。
「それなら山田から使用許可貰っているぞ。」
ペラペラとノートを捲る柳に
「嘘?って云うか、何で柳に許可を出してんの?」
詰め寄ると
「お前等ばかりスクールのコートを利用して練習しているのはズルイと言ったらすんなりと貸してくれたが?」
アッサリと口を割った。
そんな理由で…
まぁ、栄子だし仕方ないか。
俺は変ったようで変らない練習風景を眺めた。
漸く戻った俺達の日常…
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