神崎メイルは馬鹿だった。
あんな通路のど真ん中であんな発言をするとは、愚か過ぎて笑えるよ。
さて、思い出し笑いも此処までかな。
公園を通り掛かったら小学生低学年の子供二人と丸井ブン太が誘拐されそうになっていた。
ふんふんふん、面白そうである。
私は走り去った車のナンバーをバッチリ覚えていた為、犯人を特定する事は簡単だ。
警察に通報しても面白くない。
私がヒーローの如く助けに行ってやろう!
クッハ、悪役に助けられるなんてどんな気持ちだろうね?
私は松園に電話を掛け、丸井を誘拐した犯人の特定と現在地の想定を割り出すように命じた。
勿論、私一人で助けに行くわけがない。
護衛は見えないところで待機させる予定だ。
廃工場に誘拐監禁とは何ともベタな犯人だ。
私は護身用にポケットに忍び込ましていたスタンガンとエアガンを確認し、ゆっくりと中に入る。
「お前らも可哀想だなぁ〜あんな奴に恨まれるなんてよぉ!」
ゲラゲラと笑うチンピラを小学生を庇いながら気丈に睨み付ける丸井。
「アイツ…あんた達を雇っているのは山田かよ!」
おいおい、私をいくら嫌っていても私を犯人に仕立てあげてんじゃねぇーよ!
犯人も調子に乗って
「そうそう、ソイツだぜ。まぁ、痛め付けたら返してやるよ!」
と私を犯人に仕立てあげた。
黒幕打ちのめしてやる!
エアガンでチンピラAの頭上にあるパイプを狙って打った。
老朽化が激しい為、パイプの一部が簡単にチンピラAの頭上に落ちる。
ガコーンっと良い音が鳴った。
「何だっ!」
「誰だ?」
「こんなの話しに無かった。」
等々混乱しているチンピラ共に
「何だかんだと聞かれたら!答えてやるのが世の情け…」
と格好良く颯爽と登場する私。
「ペケモンだ!」
と喜ぶ子供達。
「って違うだろ!お前が主犯じゃねぇーのかよ?」
と突っ込みを入れる丸井。
良い切れ味だ。
「残念ながらこんなに頭の悪い三文芝居のような無様な演出はしない。」
クルリとチンピラ共を見渡し
「えー勝手に主犯に仕立てあげられた悲劇の少女Aだ!取り敢えず骨の髄まで調教、じゃなかったお仕置きしてあげるよ♪」
エアガンを丸井に放り投げ
「それでチビちゃんを守ってやりな。」
私はチンピラに突っ込んだ。
前世では少林寺拳法を習っていたので、この身体がどこまで持つかが問題だ。
素早く拳を叩き込み、蹴り飛ばす。
が、威力は期待出来そうにないと判断した為、奥の手を使った。
「丸井、チビちゃん達の目と耳を塞いでね!」
と警告を促して、チンピラの股間、別名チンポにスタンガンで攻撃する。
あまりの激痛に白目を剥いて倒れて行くチンピラに丸井は青い顔で同情していた。
「え、えげつねぇ…」
ポツリと零れた丸井の言葉に
「か弱き少女に寄って集って攻撃しようとする輩に手加減は無用よ。」
と弁明するが、どこがか弱き少女なんだと胡散臭い眼で見られた。
助けてやったのに失礼な奴である。
PPP〜♪
軽快な着メロが流れた。
『栄子様、ご無事ですか?』
松園の声に
「無事だよ。ありがとう松園、そうそう客間の手配をしといておくれ。あと、丸井の親御さんに私の家に泊まらせる許可を持っておいてくれるかい?」
私の命令に
『畏まりました。それとご報告ですが、例の少女が現れました。』
簡潔に報告してくれる。
何とも有能な執事だ。
私はクルリと丸井に向き直り
「犯人が来ているそうだよ♪隠れておこうかv」
ニッコリと笑う。
チビちゃん含め私達は物陰に隠れ黒幕を待つ。
ギィっと扉が開かれ
「ブンちゃん、無事?どこにいるの!?」
如何にも心配ですと登場した神崎に失笑した。
廃工場内を丸井を呼びながら彷徨き、雇ったチンピラがズタズタにヤられているのを見て
「ちょっと、話が違うじゃないっ!この役立たずっ!折角、私がブンちゃんを助けて依存させる為の計画が台無しよっ」
怒り狂ってベラベラ喋る神崎は、自分の言葉がよもや録音されてるとは思ってもいないだろう。
しかも依存させる為の丸井は私の隣にいる。
大好きだった少女に裏切られた絶望は深いことだろうね。
神崎がいなくなってから丸井は、私の腕の中で泣いた。
ふっは、これでまた駒が一つ増えたよ!
ありがとう神崎。
山田、山田と私の名前を呼んで依存する丸井に私は嘲笑(わら)った。
- 10 -
前 次