「さぁ、部屋に入って。狭いけどごめんなさいね。紅茶は好きかしら?」
ニコニコと目の前の女(ひと)はメイドの私を持て成そうとする。
普通反対ですよね!?
私が声を掛ける前にテキパキと紅茶を淹れるマリア様。
あれよあれよと何故かお茶会へ突入した。
私は絶対ボスのことか守護者を聞かれると思っていたのに
「自己紹介がまだだったわね。私の名前はマリア・ルッツ・ロッソよ。貴女の名前は?」
私の事ですか?
マリア様は困った顔をして
「教えてくれませんか?」
強要するわけでもなく、お願いをする。
何てお優しい方なのでしょう!
大抵のマフィアの令嬢は気位だけは高く我儘に育っていると云うのに。
マリア様は私のような者に対して対等であろうとしていらっしゃる!
マリア様に名乗らせて私が名乗らないとはとんだ御無礼を!
「マリア様、私はレナ・アナッシュと申します。」
緊張に震えた声になってしまった。
穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい。
マリア様は私を嘲笑うわけでもなく
「レナさんとお呼びしても?」
名前を呼んで下さった上に敬称まで付けて頂けるなんて!
何て素晴らしい人なのでしょう。
「マリア様、私のことはレナとお呼びくださいませ。」
マリア様は、はにかんだ微笑で
「それではレナと呼ばせて頂きますね。私の事もマリアと呼んで下さいね。」
フレンドリーな感じで呼び捨てにしてとお願いされてしまいました。
凄く嬉しいお申し出ですが、未来の奥方様を呼び捨てにするなど出来ません。
「レナはマリア様とお呼びしたいのです。駄目でしょうか?」
他のどの婚約者候補よりも奥方様に相応しいマリア様。
マリア様は少しだけ寂しそうに微笑んで
「レナがそう望むなら。」
と仰って下さいました。
それから私とマリア様で、それは有意義な会話で盛り上がったんですの。
ボス、マリア様ほど奥方様に相応しい方はいません。
ガッチリ物にして下さいませ!
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