-SIDE アスラン-
小さな教会で私達は今日、結婚式を挙げる。
純白のドレスを着飾ったマリアさんは、とても美しい。
この美しい女性(ひと)が私の妻になる事に幸福を感じた。
私達は今日、夫婦になるのだから…
世界に覆われた瘴気が消えた日、マリアさんの存在が消されていた。
陛下も大佐も彼女を慕っていたダアトの者達やケムダーの民の中からマリアさんという存在はいなくなり、私以外の誰もが彼女を覚えていなかった。
その時の絶望は計り知れないものではあったが、マリアさんは何処かで生きているのだと私は信じ軍を辞め彼女を探す旅に出た。
旅を始め、世界を放浪して2年が経過した頃に私は彼女を見つける事が出来た。
セレニアの花畑に佇むマリアさん。
「マリアさんっ!」
記憶だけが頼りだった。
私はマリアさんの下に駆け出し、その華奢な身体を抱き締める。
「な、な…ぜ?」
呆然と私を見詰めるマリアさんを手放さないとばかりに抱き締め
「あの日、私は貴女の逃げ道になると約束しました。そしてあの日、貴女を愛していると告げた言葉に変わりはありません。マリアさん、愛してます。世界中の全ての人が貴女を忘れても私はマリアさんを忘れられなかった。いえ、忘れたくなかったんです。傍にいさせて下さい。」
この2年間の心の内を囁いた。
「駄目!駄目よ、私は幸せになる権利なんてないの!だからっ!」
悲鳴にも泣き声にも似た悲痛な拒絶に
「幸せになる権利なんて神でさえも決める事は出来ない。マリアさんを幸せにしたい。私と一緒に幸せになって欲しい。この手を放したくありません。」
ギュッと抱き締める。
「私は貴女の目的が何であれ、貴女を愛したんです。神の赦しなど要らない。私が欲しいのはマリアさんだけです。」
ポロポロと綺麗な涙を流す彼女に
「復讐に生きた貴女も、此処で過去を憂う貴女も全て愛しています。お願いです、私の手を取って下さい。」
哀願に近い言葉を告げた。
我ながら情けないと思う。
でもマリアさんの心の片隅に私が居るならば、例え無様だと笑われようとも私は彼女を手放せない。
「私は…臆病で卑怯者なのよ。貴方を寂しさから利用するような女なの。だから…」
駄目だという言葉を私は唇で塞いだ。
唇越しに愛を囁き続ける。
マリアさんの全てを愛しているのだと…伝われば良い。
祝福するは純白のセレニアの花。
-SIDE マリア-
「母さん!」
「お母様!」
パタパタとこちらに駆けて来る足音に私はクスリと笑う。
足元にビタンと張り付く子供達に私は
「ユーリ、エステル、いきなり抱き付いてはお母さん困ってしまうわ。」
ふふ、と笑いながら諌めつつ子供達の頭を撫でた。
黒髪の少年と桜色の髪を持つ少女は、精霊の愛児。
私の影響で髪質が変わってしまったけれどもアスランは、子供達を愛してくれる。
「「今日はどんな(お)話をしてくれるの(下さいますの)?」」
可愛い双子に私は
「復讐しか知らなかった魔女を救った青年のお話でもしましょうか…」
あの頃を面白おかしく子供達に語り聞かせた。
「傲慢な魔女は神に天罰を与えられ魔女は世界中の人々から忘れ去られました。ですが、一人だけ彼女を愛した青年が彼女を覚えていたのです。青年は愛する人を探す為に世界を放浪し、やっとの想いで彼女を見つける事が出来ました。寂しいと嘆く彼女を出会った時と変わらず愛していると告げて……そしていつしか魔女の呪いは解け人になり、青年と幸せに暮らしたそうです。」
キラキラと輝く瞳で物語を聞く子供達に私は笑顔が漏れる。
「私にも王子様が現れるかしら??」
ウットリと物語の青年に想いを馳せるエステル。
「エステルには無理だろー」
ケラケラと揶揄(からか)うように笑うユーリに突っ掛かるエステル。
いつの間にか追いかけっこが始まり、あぁ幸せだと感じる私がいる。
「マリア」
ひょっこりとドアから顔を覗かせるアスランに
「ふふ、お帰りなさい。」
私は彼を出迎えた。
少し顔が赤いのは、きっとあの話を聞いていたからね。
「マリアっ」
困った顔も大好きよ。
「愛しているわ、アスラン。」
口付けを交わしましょう。
世界に忘れ去られても、私は貴方と子供達がいてくれるから幸せなの。
むかし、むかし、復讐に心奪われた憐れな女は、世界から忘れ去られ、たった一人の男の愛を得た。
そんな昔話…
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語部少女より
自分の知る人達から存在しない存在として扱われるのは凄く苦痛だと思うんです。
アスラン氏が記憶を保持していたのは、マリアさんの最後の心の砦だったからです。
Endキャラの中で彼だけが彼女を理解し、逃げ道を作った男ですからね。
まぁ、神様も無慈悲じゃないよって事で!
一緒に彼等は罪を償っていく事でしょう。
ユーリとエステルはTOVキャラです(笑)
次は、ピオニー陛下Endになります。
あっはっは、狂愛王っすね…
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bkm