銀の騎士と流水王

-SIDE アスラン-



グランコクマ王宮の最奥にある一室で、私はマリアさんの護衛を任されている。

キムラスカが担いでいるローレライの加護を多大に持つ聖女殿から我等を護る為にマリアさんが呪を施している最中なのだ。

紡がれる契約の歌に合わせて音素がキラキラとマリアさんを取り巻いていく。

第一音素から続き第六音素が譜陣を描き、大地に融けて行った。

マリアさんの額から玉のような汗がキラキラと伝っていく姿は艶かしい。

不謹慎にもそう思ってしまった。

物凄い体力とTPが削られるのだ。

彼女の大丈夫など当てにならないけれど、止めて下さいと止める事も出来ない。

何故ならそれをマリアさんは良しとしないからだ。

「見ていて歯痒いか?アスラン。」

主君である陛下の言葉に私は頷く。

この人に嘘は通用しないからだ。

「俺もだ。あの魔女とローレライに対抗出来るのはマリアしかいない。元凶を抑えればキムラスカは自滅するだろう。マリアは、それを狙っている筈だ。でもな、あの場所から引き摺り出したいんだよ。アイツがそこまで踏ん張らなくても良いんじゃねーかって、な。」

それをしたら激怒するだろうな、と笑う陛下の眼は笑っていなかった。

あぁ、この人もマリアさんを大事に思っているのだ。

「私は何も出来ないのですね。」

陛下のように場所を貸すことも、支える事も、護る事さえも出来ないでいる。

マルクトの騎士でなければマリアさんの力になれただろうか?

私はただ、ただ、美しく空虚な光景を見つめ続けた。


もし、マリアさん…

貴女が逃げたいと願うなら全てを捨てて手を引いて逃げましょう。





-SIDE ピオニー-


何が出来るというわけでもない。

王宮の最奥にある神事を司る部屋を俺はマリアに貸し出した。

マリアは、見たことも無い譜陣を描き出す。

闇に囚われ、憎悪に身を焦がして尚その生き様は美しかった。

魅入られるのだ。

キムラスカの聖女とどんな確執があるのか俺は知らん。

だが、不愉快だった。

マリアの心を占めるのがキムラスカの聖女とローレライ。

マリアの復讐を邪魔する気は毛頭無い。

復讐が成功すること、即ち邪魔者が存在しなくなる事だ。

強く存外脆いマリアの心は復讐した後、隙が生じるだろう。

浚って閉じ込めれば良い。

でも、隣にいる男がそう易々と実行させてくれねーだろーな。

「見ていて歯痒いか?アスラン。」

じっとマリアを心配そうに見つめるアスランに声を掛けた。

アスランはマリアに対しての気持ちを隠すことなく是と答える。

コイツが一番の障害だぜ。

「俺もだ。あの魔女とローレライに対抗出来るのはマリアしかいない。元凶を抑えればキムラスカは自滅するだろう。マリアは、それを狙っている筈だ。でもな、あの場所から引き摺り出したいんだよ。アイツがそこまで踏ん張らなくても良いんじゃねーかって、な。」

マリアの心が魔女とローレライに奪われて戻って来ないか心配なんだ。

まぁ、アスランは違う風に捉えているだろうけど訂正はしない。

「茶番だな…」

隣の男に気付かれないように呟いた。

そう、これは茶番だ。

全てが終われば、マリアを抱いて、抱いて、子供を孕ませて俺の隣に座らせよう。


マリアの為でも、マルクトの為でも、民の為でも、臣下の為でもない。

純粋に俺だけの為だ。





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