星の子の思惑
-SIDE アッシュ-


キムラスカを7年前に捨て去ってダアトで自由を満喫し生きてきた自覚はある。

同僚が色物だっていうのも理解出来る。

頭(トップ)が腹黒いイオンを筆頭にローレライ教団はユリアの意思というよりもイオンの恐怖政治に摩り替わっているのは最早周知の事実だ。

知らぬは髭と豚ぐらいで、ラルゴとリグレット+ディストは暴走気味のお子様達の手綱を頑張って引いて貰っている。

キムラスカに未練など更々ないし、サッサと滅べみたいに思ってたので今回の戦争は渡りに船と言えた。

「アッシュ師団長、その…」

報告し辛い事だろうか?

言い淀む兵士に

「どうした?」

サッサと報告(ゲロ)れと視線で促せば彼は意を決して

「キムラスカ公爵夫人並びにご子息お二人が面会を望まれておられます。」

キリキリと報告(爆弾発言)をかました。

いやいや、戦争真っ只中で敵の公爵夫人とその子供?

子供が二人?

どーゆうこっちゃ!??

俺が知るにはレプリカは一体のみだったはず。

いつの間にもう一人子供が出来たんだ?

愛人の子か?

悶々とする俺を余所に

「お連れしました。」

何勝手に連れて来てんだ!?

と叫ばなかっただけ俺は成長したと思う。

「こちらではアッシュと名乗っているのですね。元気そうで何よりですわ。」

ニコニコと病弱な母上が神々しい笑顔でレプリカルークとミニルークを連れて来た。

「貴方がキムラスカを七年前に捨てた理由が理解出来ました。バチカルごと消滅すれば良いのにと思ってますのよ。あぁ、貴方の兄弟であるルナとアルスですわ。」

淑女の笑みに威圧が篭められているのは気のせいじゃないに違いない。

「この愚かな母を許せとは言いません。ですが、貴方を元に作られたルナやアルスを否定する事は許しません。家族四人で仲良く暮らしましょうね。」

否なんて言わせないZO!

と副音が付き添うな母の笑顔に兄弟として紹介されたルナとアルスの顔色は頗る悪かった。

母上、何故亡命先にダアトを選んだんです。

イオン達が知れば烈火の如く怒り狂うだろう。

そのとばっちりは俺に来る!

華麗に亡命するならマルクトかケムダーにして欲しかった。

漆黒の翼でも雇って彼等をイオン達が戻って来る前に此処から立ち去って貰いたい。


苦労将の長男は、これから降りかかるだろう災難の回避に頭を悩ます事になる。

シンク達にデコと呼ばれて数年、そろそろ生え際の心配を本気で考えた方が良いかも知れない…。




-SIDE ルナ-

俺は母上からルナという名前を貰った。

今のルークはアルスという名前を与えられている。

俺は拙いながらも俺自身に起きた過去の出来事、そして逆行してアルスの体を乗っ取ってしまった事。

自分達がレプリカであり、大爆発がアッシュと遠くない未来に起こる筈だった事を説明した。

母上には驚かれ、父上と叔父上に激怒し、大爆発回避に安堵され、結局の所は貴方も自分の息子だと宣言された。

とても嬉しかった。

見守っていてくれたローレライは、もう遠い存在にしか思えない。

新たな絆を築くのは本当に難しい事だろう。

でも、諦めたくないと思うから…

この世界のアッシュもアルスもイオン達も解り合える日が来るなんて思わないけど、努力を放棄するような事はしたくない。

この世界では最初から存在しなかった信頼なのだ。

恰もそこにあったように思い込んでしまった俺の過失。

「アルス!」

この世界の俺の名前を呼んだ。

全てを赦す振りをするアルスは悪くない。

でもいつか振りではない、本当の気持ちを聞き出せるようになりたいな。




-SIDE アルス-


俺はルナを完全に許したわけじゃない。

だって俺からマリアを取り上げた元凶の一人なんだからな。

フォミクリーという技術でアッシュを元に作られた模造品(レプリカ)と呼ばれる産物だと知った時、被験者に対し何で戻って来なかったんだと憎悪しか沸かなかった。

俺はマリアと出会うまで胡散臭い髭と変態使用人、似非聖女に傲慢王女に囲まれて育ったと言っても過言ではない。

母上は嘆くだけで俺を見ない人だと思っていた。

でも違った。

母上だけが、俺とアッシュとルナを見分けていたんだ。

レプリカであろうが自分の自慢の息子だと王に父上に刃を向けたのは紛れも無く母上だった。

俺とアッシュとルナを生かしたのは、紛れも無くマリアだった。

幸せにあれば良い。

欲しい存在(もの)を望めば良い。

手に入れようと行動を起せば良い。

それが誰かの為という免罪符を捨てて、自分自身の為であると自覚させられた。

マリアも俺も同じ存在だからこそ、マリア自身と俺との間に出来た子供を一度は殺しているのだと断じられても仕方ないんだ。

それが俺の意思でなくても…

母上も俺とマリアと第三者の介入で何かがあり、マルクトとケムダーを選ぶのは危険と判断したのだろう。

ダアト亡命を決意したのは俺達の被験者であるアッシュがいる事も一つだけれど、母上としてはマルクト帝国や力量が計り知れないケムダーよりも常識人が手綱を引いているダアトにしたんだと思う。

ルナ曰く、ティアもアニスも常識的だったらしいし、俺にしてみれば当たり前なんだけどさ。

常識的といえば母上のダアト亡命宣言にアッシュがブツブツと生え際が…と呟いていたぐらいだ。

まぁ、俺達に対して蟠りはまだあるみたいだけど、母上の哀(あい)のプリズムソードの前に観念したらしい。

アッシュがローレライの完全同位体。

俺達とアッシュは完全同位体。

そして俺達とローレライも完全同位体。

俺はマリアの望みを却下する。

だって到底受け入れられるものじゃないからな。

でも、神を気取る存在も聖女を騙る魔女も始末してやるさ。

「アルス!」

俺は偽善の表情で振り返った。

全てを赦し、全てを受け入れた聖者のように、ね。



歪な星の子の思惑は、やがて新たな世界の始まりを告げる合図となる。





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