ゴーマニズム(神)とヒロイズム(聖女)

-SIDE ヒメコ-


おかしいわ!

こんな筈じゃなかった。

全然違うじゃないの!

ゲームとは全然違う展開に私は頭を抱えた。

だってルークもいないんだよ!

アッシュだって、他の皆だって私の傍にいて当たり前なのにモブしかいないなんて耐えられない。

それに何で私が戦場に立たなければならわいのよ!

「聖女様、出陣の準備が整っております。」

恭しく礼をするモブに私は溜息を吐いた。

私に傅くのはメインキャラ達であって、こんなモブじゃないの。

私の為に開かれた扉を潜った。

きっとケムダーを統治していると言われていた女が狂わしたんだわ。

どいつも、こいつも、どうして私の思い通りにならないの?

私はローレライに愛されたキムラスカの聖女なのよ。

全てを狂わしたケムダーを滅ぼしてしまえば、きっと元に戻るはずよ。

いなくなったルーク達も私の元に戻ってきてくれるんだから!



己の正義を振り翳したヒロイズムに酔った少女に魔女は細く嘲笑(わら)った。




-SIDE ローレライ-



人は何て愚かなんだ。

争そいを止める事をしない。

心優しきヒメコの願いも虚しく、開戦された。

何度繰り返しても聖なる焔に対する扱いは酷いもので、ヒメコの力を持ってしても叶わなかった。

予言、予言、予言…

繰り返される未来の道筋の一つだというのにそれ以外を模索しようとしない人間達。

以前の世界とは違い、今回こそはと思っていたのだが聖なる焔は何者かの手によって掠め取られてしまった。

私の可愛い愛し子を!

「大丈夫よ、ローレライ。忌々しいケムダーを滅ぼしてしまえばルーク達は私達の所に戻ってくるわ。」

アノ頃と変わらずに聖なる焔を心配するヒメコに

“お前はユリアのように心優しいのだな…”

古の聖女を重ねた。

嘗ての彼女もまた人の世を憂い心を痛めていた。

星の滅亡を回避する為に奔走し、死した聖女。

「そんな事ないわよ。私はルーク達が大事だから…ただ、それだけだもん。だから私にもっと力を頂戴。絶対に取り戻してみせるから!」

私はヒメコの願いを叶えた。

キラキラと輝くは、ローレライの鍵と呼ばれる代物。

ヒメコ専用にカスタマイズされたものではあるが…

これさえあれば私の聖なる焔を奪ったマルクトやダアト、ケムダーを一掃する事が出来るだろう。

マリアという私の聖なる焔を誑かした者は、この世界にいない。

しかしマリアという女が作り出した組織が私の願いを阻む。

古に愛したユリアと同じく、私はヒメコに全てを与えた。

どうか、どうか、私の聖なる焔を救って欲しいと願いを託して…



歪な愛が世界を救うと信じて止まないゴーマニズム(神)に精霊王は断罪の剣を抜いた。





-SIDE ジョゼット・セシル-



私はキムラスカの騎士である。

没落した家を再興させる為に私は軍に入軍した。

この地位と名誉を獲得するのにどれほどの苦労を要した事か…

ホド戦争の傷も癒えていないというのにキムラスカ王はマルクト、ダアト、ケムダーを相手に戦争を仕掛けようとしている。

上層部はお気楽で良いな。

その御目出度い頭は屑が詰まっているのだろうか?

考える事を放棄した人間の末路がキムラスカの王なのだ。

譜術に卓越しているマルクト、機動力に優れているダアト、その実力は計り知れないケムダーを相手に勝てる気がしなかった。

寧ろ犬死して来いと言われた気分である。

戦場の安全な場所で大事に守られている聖女様は、我等を見殺しにする気なのか!?

乱戦と化した戦場で私は只管剣を振るった。

そして私は見た。

空を飛ぶ音機械を!

まるで鳥を模したかのようなソレは、キムラスカの本陣目掛けて突入していった。

心の何処かで思う。

キムラスカは終わったのだと…

私は部下に撤退の命を出し、戦場から離脱した。

私が捧げる剣はキムラスカには在りはしないと悟ったからだ。

そして正義が何処にあるのかも我等は知っているからこそ、部下は何も言わずに私に着いて来る。




後に女は語る。

彼等は、この世で一番醜悪なゴーマニズム(神)とヒロイズム(聖女)だったと…



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