クルアーン(報復)

-SIDE インゴベルト-



キムラスカはマルクトと戦争を起す気でいた。

しかし誤算があった。

それはマルクト、ダアト、自治区程ではないがほぼ独立しているケムダーより宣戦布告されたのだ。
マルクトからは『我がマルクト領アクゼリュス崩落につき一万の民と故郷を故意に消滅させた事を遺憾に思う。始祖ユリアとローレライの名に置いて粛清を受けるべし』

アクゼリュスの事を責められ
ダアトからは『ユリア再来と聖女の名を騙りダアトの至宝を死に追い遣った罪は赦し難い。始祖ユリアとローレライの名において聖戦とす。』

身に覚えのない事で責められ

ケムダーからは『ケムダーに災いを招きしユリアの聖女を騙るヒメコの業は深く重い。始祖オリジンの名のもとに報復を受けるべし。』

キムラスカの聖女に対しての抗議に近い。

「これは一体どういう事なのだ!」

三方から送り付けられた開戦の声明文にインゴベルトはモースに怒鳴り散らした。

「キムラスカの繁栄の為にアクゼリュスへルークを向かわせたと謂うのに生きて戻って来たではないか!マルクトとの戦争は解るが、何故そなたが所属するダアトが我がキムラスカに牙を向くのだ!しかもケムダーを敵に回す等とは、モースっ!」

ダアトやケムダーとの戦争は予言には詠まれていない。

「きっと何かの間違いです。予言は絶対です!」

頓珍漢な言葉しか吐かないモースに己が王としてどれだけ無能だったのかを知った。

予言、予言と全て外れているではないか!

産まれて直ぐに摩り替えられたナタリアは、今まで一緒に過ごして来た平民の娘に存在を盗られたのだ。

今いるナタリアと今まで一緒に過ごした時間は短くはない。

だが、存在自体を隠蔽された事実には変わらない。

「では、何故ダアトやケムダーまで宣戦布告するのだ!?」

私の言葉にモースは、しどろもどろになりながら言葉を募った。

「…もう良い。」

私の言葉にモースは何を勘違いしたのか、ベラベラと予言の重要性を説き始めた。

予言を妄信した末に世界を敵に回してしまった事に今更ながら痛感する。

スっと控えていた兵にモースを捕らえるように促せば

「な、何をする!陛下、予言は絶対なのですぞ!私にこのような仕打ちはユリアを冒涜するも同じ事です。」

等々と喚き出す始末。

此のまま白旗を揚げて降伏する事は貴族達が許さないだろう。

私はアルバインを呼び

「聖女ヒメコを召喚せよ。」

静かに命じた。

ローレライの加護を持つというキムラスカの聖女を旗本にし軍の士気を上げると共にローレライの力をキムラスカに役立てて貰おうではないか。




-SIDE シンク-


アクゼリュスが魔界に落ち、ダアトに戻りキムラスカとの戦争の準備が進んでいる中で僕はイオンに命じられキムラスカにて諜報活動をしている。

キムラスカではノワール達がばら撒いてくれた噂で面白い事ばかり起きていた。

惑星消滅予言と偽姫、似非聖女と噂には事欠かない。

一番驚いたのは、キムラスカの上層部が噂に対し何も対策を講じていなかったことだ。

アホだろう、と思ってしまった僕は普通だと思いたい。

もうキムラスカの民の心はマルクト、ダアト、ケムダーに正義があり自国の王を愚王と虚仮おろす始末。

「また戦争ってキムラスカのお偉いさんの頭は屑が詰まっているのかねぇ」

ケタケタと妖艶に笑うノワールに

「仕方ないさ。予言で国を治めている馬鹿の集まりなんだからね。それよりもアビオールの手配はどうなってる?」

これから活躍をみせる筈の空飛ぶ音機械の貸し出しはどうなったのか聞いた。

「それなら心配ないよ。ちゃんと操縦士と一緒に借りる事が出来たさ。」

マリアの名前を出しただけで貸してくれるなんてアノ子はどんだけ人脈を持っているんだろうね、と優しく笑うノワール。

操縦士と聞いてギンジという青年を思い出した。

マリアがアリスと名前を変えて潜伏して居た時にお世話になったシュリダンの兄妹。

得に兄のギンジはマリアに気があった。

人を惹き付けるマリアに僕は溜息を吐く。

「ふふ、恋するお年頃ってかい?」

揶揄うように嫣然と笑うノワールに僕は沈黙で通した。

文句でも言えば絶対に彼女の気が済むまで揶揄れるのは間違いない。

そんな事は御免だ。

僕はノワールに今後の指示を出してダアトに戻った。

これから起きる聖戦の為に…



我等の宝石(宝)を傷つけたクルアーン(報復)は着実にキムラスカに忍び寄っていた。

花(復讐)は美しく妖艶に花開く。

我等は神(ローレライ)に反逆する。


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bkm
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