流水王の思惑と嘲笑

アクゼリュス崩落というのは御幣があるか…

アクゼリュスは無事降下したと報告を受けている。

まぁ、崩落したとしても処刑を待つ罪人達の墓場となるだけでさして問題はなかった。

惜しむべきはキムラスカの親善大使一行が生き残っていた事ぐらいだろうか?

報告を受けていたユリアの子孫であるティア・グランツとキムラスカの聖女の譜歌のお陰らしい。

「さて、どうしたものか…」

ふと零れた独り言に幼馴染であるサフィールことディストが

「アクゼリュス崩落の罪で宣戦布告でもしたら如何です。どうせキムラスカを潰しに掛かるんでしょう?」

俺が頼んでいた情報を纏めた書類を手渡した。

サフィールから渡された書類に目を通せばキムラスカ側からマルクト、ダアトに対する不敬が出てくる。

「あの偽姫様はどうするんですかねぇ〜」

他人事のように呟くサフィールに俺は

「同僚の娘じゃなかったのか?」

意地悪で突いてやると

「縁は数年前に斬鉄剣で斬ったとラルゴは豪語してましたけど?獅子王の娘とは思えない浅墓な娘でしたね。お頭(つむ)は育て親のキムラスカ王そっくりですよ。」

幼少期では考えられなかった切り返しを食らった。

「お前なんだか逞しくなってないか?」

正直な感想に

「あそこ(ダアト)はやんちゃばかりなので手綱を取る人間が逞しくならなきゃ生活出来ないんですよ。」

被験者に一番似ているイオンは権力と外面をフル活用して人事一掃したり、書類が嫌だからとアリエッタやシンク、アニスを巻き込んで逃亡したり…お陰で胃薬が手放せない生活になりつつある事にサフィールは溜息を吐いた。

「いつから私の研究所は託児所になったんでしょう?」

本当に素朴な疑問なのだろう。

イオン辺りは、自分達が生まれた瞬間からと言いそうだが、それを教えてやるつもりはない。

その内、サフィール自身が聞いて墓穴を掘るだろうし。

「早くマリアに逢いたいなぁ…」

俺が誰よりも一番最初に見つけた俺の宝は、俺の手を離れ人々から至宝と呼ばれるまでに輝いている。

煩わしくあれど、誇りにも思える気持ちに俺は苦笑した。

ネフリーですら俺にこんな感情を与える事は無かったのにマリアだけが俺の内(なか)にある感情を呼び覚ます。

「そういえば、彼女を最初に世話したのは貴方でしたね。今では誰もが傅く女性(ひと)に成長してますが…」

サフィールは少し溜息を吐いて

「ダアトは彼女を手放す気はありませんよ。ケムダーは、アニスが次期当主ですから交渉次第でしょうね。アニスを子供と思って交渉に臨めば痛い目を見ますので、くれぐれも慎重を期して下さいね。」

牽制と忠告を入れてきた。

「サフィール、お前はマルクトに戻って来ないのか?」

そう聞けばサフィールは笑って

「私がダアトを空ければあの子達の面倒を誰がみるんです。ラルゴは子育て上手ですが、リグレットは子育て下手過ぎるんですよね。おちおち安心して任せておけません。」

マルクトに戻る気はないと言い切る。

「お前、変わったな…」

良い方向に変わったと思う。

そんな俺の心情を知ってかサフィールは小さく笑うだけだった。

「さて、私の身辺の事は置いておいて、貴方に頼まれていた仕事が終わった事を伝えておきますよ。」

お暇(いと)すると席を立ち部屋を出たサフィールを見て俺は嗤った。

「はは…流石、俺の幼馴染!仕事が早いじゃねーかっ」

民衆の心はマルクトに、正義はケムダーに同情はダアトに向けられる。

まぁ、そう図ったのは俺なんだけどな。

此処まで巧くいくとは思わなかった。

キムラスカは堕ちる。

自ら崇める王の愚かな手によって、だ。

あとはマリアを捕まえるだけ…

愛しい俺の小鳥。

一生、後宮(とりかご)に閉じ込めて俺だけをその瞳に映し愛せば良い。

最初に出会った時のように俺だけの手を求めれば良い。




美しき水の首都グランコクマより。

水と大地を治める人の王は予言(うんめい)を嘲笑した。

グルグルとメビウスの輪のように廻り巡るのは人々の思惑。



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