崩落するアクゼリュス(大地)と砕ける心

-SIDE 逆行ルーク-



キムラスカとマルクトの正式な要請を受けてイオンと一緒にアクゼリュスに向かう事になった。

道中やはり何処か刺々しい気がするのは気のせいではないはずだ。

ガイやナタリアは、ギスギスした雰囲気に気付いていない。

アクゼリュスには現場視察した後にセントビナーで慰問の予定だったのだ。

それをガイとナタリア、ヒメコにも事前に通達していたにも関わらず勝手に行動する二人にイオンやジェイド、アニス達が呆れたような表情(かお)をしていた。

「…ごめんな、ジェイド。」

申し訳ない気持ちで謝罪しても

「別に構いませんよ。彼等は民間人ですので。」

外面用の笑顔で事務的に返される。

「っ…そっか、後はセントビナーで慰問だよな?」

何とか繋がりを作ろうとするけどジェイドは素っ気無く

「えぇ、そうですね。兵を撤収させましょうか。」

近場にいた兵士に撤収する旨を伝えた。

絆を築く前に開いている溝をどう埋めたら良いのだろう?

知っているのに全く知らない今に俺は戸惑った。

そして不安になる。

「ルーク!どうして兵を下げますの?まだ残された民がいるかもしれませんわ!」

散々好き勝手していたナタリアが俺を怒鳴りつけた。

それに便乗するように

「そうだぞ、ルーク。もっとよく探さないと!ジェイドの旦那にちゃんと言っておいてくれよ。お前の役目だろ?全く困ったもんだ…」

ガイが俺を責立てる。

また、あの時のような感覚に陥りそうになった。

そんな俺の思考を中断したのは、イオンの声。

「ルーク殿、申し訳ありませんが一緒に来て頂けますか?」

アリエッタを伴ったイオンが立っていた。

自分だけが懐かしいと感じる気持ちにこの世界のイオンは以前の世界のイオンと違うのだと気付く。

そう、全てが違うのだから考え方も生き方も同じな筈がない。

闇に落ちてしまいそうな暗い気持ちを出さないように勤めて明るく

「どうした?」

笑って答えた。

イオン達が言うには14坑道の奥に人が取り残されているという報告が入ったらしい。

イオン自身が動くのもどうかと思ったけれど、視察も兼ねているから親善大使である俺にも一緒に来て欲しいとのお願いだった。

ヴァン師匠もいない今、アクゼリュスが崩落する事はないと踏んでいた俺は、あの悪夢を繰り返す事になる。

「なぁ…イオン、おかしくないか?」

誰もいない坑道。

その先はダアト最高機密であるセフィロトがあるのだ。

俺はイオンが何をしたいのかよく分からなかった。

「ねぇ、ルーク殿は僕達ダアトの至宝を知ってますか?」

セフィロトの門は苦も無く簡単に開き、パッセージリングへと誘われる。

イオンの問いが何を意味しているのか解らなくて、俺は

「ダアトに至宝なんてあったのか?予言、とか?」

思いつくものを上げてみた。

ニッコリと綺麗に微笑むイオンが怖いと思ったのは初めてだ。

「そうですね、予言は尊守すべきものです。ルーク殿、超振動であのパッセージリングを破壊して下さい。崩落させるのに一番手っ取り早いでしょう?」

前の世界のイオンなら絶対に言わなかった言葉に俺は恐怖する。

何を、言ってるんだ?

「何を言ってるんだ、イオン!まだ少なくても人がいるんだぞ!?」

人の命を大事にする奴だったのに、目の前にいるイオンは

「それがどうかしましたか?予言を成就する事を前には些細な事でしょう。」

ニコニコと優しく微笑んで超振動を起せと命じた。

嫌だと抵抗し、叫ぶ俺をアリエッタと後から来たシンクやアッシュが取り押さえ

「“ルークレプリカ”超振動を使いなさい。」

イオンの言葉に俺の身体がヴァン師匠に暗示を掛けられた時と同じようにパッセージリングに向かって超振動が放たれた。

薄れ行く意識の中で、イオンが無表情な顔で俺に何か言っていたのだけは覚えている。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

また、俺は多くの民の命を消してしまった大罪人なんだ。

罪を無かった事なんて出来る筈も無いのに…


つつぅーと頬を伝う雫が崩れ行く大地を濡らした。





-SIDE 現行ルーク-



心が崩壊する音を聞いた。

俺を乗っ取った俺と違う俺の心がアクゼリュスの崩落と共に崩壊した。

崩壊した心の切れ端から違う俺の記憶が流れ込んできた。

劣悪な環境、非常識な人間達、罪を擦り付ける罪人達、傲慢にも俺達に世界の為に生贄となれと命令(お願い)を告げた被験者。

これがもう一人の俺が体験した事だと思うと恐怖した。

もしかしたら俺が経験する事だったかもしれなかったからだ。

アクゼリュスの崩落後、俺達はティアとヒメコの譜歌によって助かった。

「貴方は誰ですか?」

一緒に同行していたイオンの言葉に俺は困惑する。

俺はアイツの眼を通してイオンを知っているけれども俺自身はイオンを知らない。

イオンが違和感を感じるのは無理は無いと思うんだ。

「お前の知らないルーク・フォン・ファブレだ。」

そう伝えれば、当惑したような表情(かお)をするイオン。

周囲を見渡せばイオンと同じように困惑の表情を浮かべていた。

例外として何故かヒメコだけは、彼等とは違いいつも通りの表情に疑問が沸く。

もしかして俺がもう一人の俺に乗っ取られるのを知っていたとか?

「別に良いじゃない。ルークはルークなんだから!」

吐き気がするような無責任なヒメコの台詞に俺を含め奇異の眼で彼女を見た。

フォローにも説明にもなってない無責任な言葉に溜息が漏れそうになる。

此処から出て、俺はマリアを探しに行かなくちゃいけないんだ。

身体を乗っ取られて、気付いたらマリアは傍にいなくなっていたんだ。

全てが以前の俺だった奴の記憶を継承しているわけじゃないから、マリアが何処にいるのか分からない。

でも、俺はマリアを探しに行かなくちゃいけないんだ。

親善大使なんてものだって本当なら別の奴がやれば良かったんだ。

叔父上や父上はアクゼリュスの崩落を知っていたに違いない。

きっとその後に戦争で勝利するとか詠まれているんじゃないか?

短絡的思考回路な予言妄信国のトップなのだから!

ヒメコの言葉にイオン達の目に敵意が宿った。

「そう、ですか…では、アクゼリュス崩落の実行犯として捕らえて下さい。ついでにキムラスカの聖女様と自称ナタリア姫、使用人もお願いしますね。」

イオンの後ろに控えていたアリエッタとシンクが素早く俺達を捕らえる。

抵抗する間もなかった。

連れて行かれた先は牢屋。

親善大使が牢屋ってマルクトも同じく和平を結ぶ気皆無だったのが良く分かる。

「何で俺まで牢屋に入れられなきゃならないんだ。」

ブツブツと不満だけを零すガイに同調し

「本当ですわ!キムラスカの王女であるわたくしを牢に入れるなど、マルクトは和平ではなく戦争をしたいのですのね。」

ナタリアがギャンギャンと吼えた。

戦争を〜の件は分かるが、キムラスカの王女を捨てた人間が何を言うんだ?

と思った俺は悪くないと思う。

「何かの陰謀だわ!きっと黒幕はケムダーの服でローブを被った女だと思うの。戦争を起そうとしているのよ。」

いや違うと思うけど、何故そんなに自信満々なんだ、この女は?

「まぁ!では、わたくし達はケムダーの者達に騙されたのですね!」

マリアから世情や常識等を教わってきたけれどもナタリアは俺よりも常識外れじゃないか?

それでよく無理矢理補佐として同行しているらしいけど意味があるのか?

「先ずは此処を出ないと駄目ね。一度キムラスカに戻ってから対策を考えよー!」

勝手に決まっていく今後の行動に俺は無言を通した。

コイツ等と一緒にいる気は更々ない。

だって俺はマリアを探しに行かなくちゃならないんだ。

身体が自由になった今だからこそ出来る事…

いつ以前の俺って奴に乗っ取られるか分からない現状、急ぐしかないんだ。

そんな俺の気持ちを余所にヒメコが俺に触れローレライが干渉し、擬似超振動を起しやがった!

膨大な第七音素と光と共に消えた罪人達。




崩落するアクゼリュス(大地)と砕ける心。

神(ローレライ)が愛した朱金の児は夜空の星のように罪に押し潰され心砕けた。

もう一つの魂(こころ)は愛しい女性(ひと)の名前を悲痛に叫ぶ。



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