-SIDE ガイ-
仄暗い気持ちだけが俺を生かしている。
俺の家族は、キムラスカのファブレ公爵に殺された。
許せない。
だからこそ一番大事な朱色の子供を惨殺しようと思っていた。
そう…7年前までは…
ルークがマルクトに攫われた日、俺はザマーミロと歓喜したと同時にこの手で殺すチャンスを失った喪失感に苛立った。
そしてあの日、誘拐されたルークが戻って来た時に感じたのは、復讐出来るチャンスを手に入れた事に歓喜したと共に赤子のようになってしまったルークに対しての同情だった。
今までルークの傍に控えていた傍係ですら匙を投げ出すほどルークは白紙に戻っており、俺が世話役を買って出た。
それは一重にルークが俺に依存し、切り捨てた時の絶望を味合わせる為だ。
俺の思い通りにルークは年を重ねるに連れ我侭で傲慢な貴族に成長していった。
滑稽な程に無知な子供に俺は嗤う。
しかしケムダーからキムラスカの聖女様を護衛する目的で派遣されたマリアという女性がルークに知恵と教養を与え、ルークは一変してしまった。
今まで俺にあった信がマリアという女に移り変わっていく様は気分の良い物ではなかった。
天は俺の味方をしてくれているのだろう。
マリアという女はダアトに向かう途中で事故で海に落ちて死んだらしい。
これでまたルークは俺に依存すると確信する。
案の定、ルークは俺を傍に置くようになった。
もっとドロドロと俺に依存して溺れていけば良い。
そんなある日、ダアトより予言師から与えられる予言の最中に事故は起きた。
ルークとティアという少女の間に起きた擬似超振動。
ルークは外の世界に飛ばされ、俺は捜索を願い出たが却下され歯噛みしながらルークの帰還を待った。
探すついでに聖女様と一緒に始末してやろうと思っていたのに残念だ。
だが、親善大使のルークの護衛として同行出来る事に歓喜する。
俺は無知で馬鹿で愚かなルークに
「ルーク!!」
俺は嘲笑(わら)う。
朱色の髪を撫でながら俺は嗤う。
その髪と同じ色に染まる日を夢見て俺はルークに笑顔を向けた。
-SIDE とある元老騎士-
私は罪を犯しました。
主を生かす為に復讐しろと進言してしまったのです。
あの頃、まだ幼い主に家族の死は残酷としか言えませんでした。
ですが、戦争だったのです。
ガルディオス家も剣を持ちキムラスカの将を葬って来たのですから…
いつか主が己を省み、ホドの民を想い、マルクトに戻って復興なさって下さるのを夢見ていたのです。
ですが、私の失言で主は復讐という妄執に捕らわれてしまわれた。
あろう事か復讐の対象をファブレ公爵ではなく、年端もいかない幼子に向けられるとは!
きっと気付いて下さると言い聞かせ5年が経ち。
まだ子供なのだから大人になればホドの民の為に立ち上がって下さると信じ10年が経ち。
成人したのだからマルクトへ戻ろうと決意して下さると信じ15年が経った。
しかし主は一向に復讐を諦めておらず、あろう事か復讐対象を摩り替えてしまわれた。
失意の中で私は一人の女性(ひと)と出会ったのです。
もう故人ではありますが、マリアさんという不思議な方でした。
多くのホドの難民やキムラスカ、マルクト、ダアトから流れてくる貧しい民の為にケムダーの島を開拓し発展させたケムダーの聖女。
キムラスカの聖女とは大違いで、彼女は住まう民達に最低限の生活の保障を約束したのです。
本来ならガルディオスである主がすべき事でした。
ルーク様もマリア様と出会い、段々と変わっていかれました。
貴族特有の人を見下す事が少なくなり、好奇心旺盛に年頃よりも少し幼くなったけれども疑問を尋ねてくる姿や感謝を述べる姿に私はキムラスカの希望を見たのです。
そしてその反面で醜悪に復讐を企てる主に失望しか浮かばなかった。
「ケムダーの民は、故郷の無い者達の集まりです。故郷を捨てた者、捨てられた者が集まる場所、それがケムダー。」
哀し気に語られるケムダーの由来に私は決意する。
「正義とは、勝者に与えられる称号だと思うのです。貴方が思う正義を貫けば良い。例えそれが大罪であったとしても…」
真っ直ぐに向けられた視線に私は瞠目した。
この方は主がホドを見捨てた事に怒りを感じている私の心を解っているのだと…
私は剣を持つ。
もう二度と持たないと決めていた剣を!
全て、全て、魔女の思惑通りに運ぶ滑稽な復讐者(セネカ)の物語。
滑稽な復讐者(セネカ)は、気付くだろうか?
憤怒の民が自身に復讐を企てている事を!
シナリオは魔女の手の内に…
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bkm