-SIDE マリア-
「ご主人様、暑くないですの?」
ケムダーの正装した上で、分厚いベールで覆われているのだ。
見ようによっては暑苦しいだろうけれども、ウンディーネの力が働いているため然程暑くは無い。
「ふふ、大丈夫よ。ミュウこそ暑くないかしら?」
魔物といえど、マルクトの気候はケムダーの四季で言えば調度初夏にあたる。
「大丈夫ですのー!」
ビシっと元気良く手を上げるミュウに久々に笑った。
そんな微笑ましい私達の遣り取りも
「マリアさん、準備が整いました。」
アスランさんの言葉にミュウとの話を終わらせて、彼に向き直る。
「アスランさん、アクゼリュスまでまた宜しくお願いします。」
頭を下げた私にアスランさんは慌てたように
「マリアさん、頭を上げて下さい。貴女の護衛が出来て光栄に思っているんです。」
真摯な言葉をくれる彼に出会った頃と変わらないなと私はクスリと笑ってしまう。
「そう言って頂けて嬉しいです。ミュウ、アスランさんに挨拶なさい。」
肩に乗せていたミュウは元気良く
「僕はミュウですの!宜しくお願いしますの!」
ピシっと手を上げて挨拶をした。
ティアが見たらきっと喜ぶだろうな…
なんて考えつつもアスランさんと今後の事を話し合う事にする。
この後、イオンや親善大使一向と合流しアクゼリュス慰問へ向かう事になるのだ。
ルーティからキムラスカのお姫様が密航して親善大使と同行しているという報告も受けている事だし、コレを利用しない手はない。
「キムラスカのお姫様がお城を抜け出し親善大使に無理矢理同行しているようです。」
そう伝えれば
「そう、ですか…」
ちょっと顔が引き攣っていた。
まぁ、護衛対象が増えるとなると部隊編成も考慮しなくてはならないしご愁傷様としか言えない。
「いよいよ、ですね。」
キムラスカの滅亡ルートはアクゼリュス崩落から加速していくのだから、ね。
似非聖女様と偽姫様はどんな失態をしてくれるのかしら?
墓穴を掘って、マルクト、ダアト、ケムダーから宣戦布告を受けて欲しいものだわ。
魔女は未来(先)を観てウットリと嫣然と嗤った。
-SIDE アスラン-
被験者であるヴァン・グランツ討伐の為に私はILLUSION CITY(幻影都市)と呼ばれる街まで彼を追いかけた。
流石、ダアトの総長だけあって手強かったが、マルクトの選りすぐりの新鋭の前では彼は膝を屈する事になる。
光の民(アメン)と共存する都市の中央に浮かぶ深淵の牢獄に彼を閉じ込めた。
被験者とレプリカ…否、光の民(アメン)と呼ばれる民は互いに歩み寄り生活をしていく様は、正に世界の在るべき形なのだろう。
出自が異端であったとしても生きている道筋は人と変わりなかった。
マリアさんは、レプリカではなく光の民(アメン)と呼ぶのだろう。
ILLUSION CITY(幻影都市)から私はグランコクマへ一時帰国し、陛下に報告した後に第二師団を率いてカイツールへ向かった。
ケムダーの長であるマリアさんの護衛という任務。
アクゼリュスの民はダアトの協力もあり8割方救助完了していた。
親善大使がアクゼリュスへ到着する頃には完全に救助が終わっている事だろう。
しかし親善大使にはアクゼリュスを崩落して貰わないといけない。
この後にキムラスカと全面戦争になるのだ。
心の中で気を引き締めなければと自分に言い聞かせる私にマリアさんは
「アスランさん、一人じゃないんですから。」
ベール越しに私を気遣ってくれた。
そう、一人じゃない。
「そうですの!ミュウもお役に立ちますの!」
小さな仔チーグルまでもが私を励ましてくれる。
「神は乗り越えられる試練しか与えない、と私は聞いた事があります。」
ベール越しにフンワリと笑うマリアさんの言葉にハっとした。
「そうですね。未来は私達の手で切り拓いて行くんですから…」
私の言葉にマリアさんは同意してくれる。
いつもマリアさんは、私の背を押してくれた。
迷えば手を差し伸べ、未来(先)へ促してくれる。
でも、マリアさんは?
ずっと独りで立ち続ける彼女は、誰の手も取らないけれど…いつか彼女が光となって消えてしまうのではないかと思うのです。
私とマリアさんを隔てるベールを優しく取り除き彼女の澄んだ眼を真っ直ぐと見つめ
「あの日、貴女に告げた言葉は今でも此処にあります。」
私はマリアさんの逃げ道になると告げたあの日の言葉は有効なのだと告げる。
揺らぐ彼女の瞳に
「マリアさん、愛してます。例え貴女の心が私に向く事が無くても私は貴女を愛してます。だから利用して下さい。」
この想いも利用してくれれば良い。
私は彼女に触れるだけの口付けを送った。
愛しているんです。
この手で手折れるのなら摘み取り、自分だけのモノにしたい一輪(ヒトトキ)の鈴蘭(幸福)。
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bkm