-SIDE アニス-
ヴァンの脱獄の手引きをしたのが両親だったなんて!
私は暗い牢獄の中にいる。
どこまで私の幸せを踏み躙れば気が済むの?
ごめんなさい、イオン様。
ごめんなさい、マリア様。
ごめんなさい、皆。
謝罪してもしたりない罪だと理解しているけれど、私に出来るのは謝罪だけなの。
此処にナイフがあれば、首を切って罪を償うのに!
カツン、カツンと響く靴の音に私は顔を上げた。
導師守護役長が私を見据え
「アニス・タトリン、処刑の時が来た。お前も元とはいえ、導師守護役であるならば潔く刑に服しなさい。」
処刑の時を告げる。
私は悪くないなんて言えないよ。
だって、あんな愚かな両親を野放しにしていたのは私の罪だもの。
イオン様にマリア様に害が及ぶならば殺していれば良かったのだ。
それをしなかったのは、私の甘さと罪。
「はい」
だから私は命で罪を償うの。
連れて行かれた先は、通常の処刑場ではなく秘密裏に処刑する糾弾所だった。
それもそうだよね。
今回の件はイオン様にとってマイナスでしかならないんだもん。
「アニスちゃん!」
「アニス!」
見たくもない両親に私は表情(かお)を歪めた。
私の心情もお構い無しに彼等は
「アニスちゃんからも彼等に言ってあげて頂戴。」
「そうだよ。あの人を助けるのは予言に詠まれていた事なんだ。」
何て身勝手な言葉なの!
「どうして私達が捕まらなくちゃならないのかしら?」
「敬謙なユリアの信者である私達は予言に詠まれていた事を遂行したんだよ。罪はないんだ。」
予言に詠まれているのだから罪はない?
本当にそう思っているの?
自分達は悪くないと言い募る彼等に私はキレた。
「罪がない!?冗談言わないでよ!大罪人の脱獄の手引きをしただけでも罪なんだよ!予言に詠まれているから罪にならない?馬鹿っじゃないの!自分の娘が借金で身体を売ることも予言に詠まれていたから平然としてたんだ?アンタ達なんか、アンタ達なんか私の親なんかじゃない!慣れ慣れしく私の名前を呼ぶな下種っ!イオン様にもマリア様にも迷惑かけやがって!予言、予言、予言って予言が大好きなら予言と結婚すればぁ?この処刑だって予言に詠まれてるのかもねっ!だったら潔く死ね!」
ハァハァと一気に長年言いたかった事を吐き出した。
ボロボロと零れ落ちる涙を止めることは出来ない。
イオン様をお守りする事が出来る導師守護役が誇りだった。
マリア様のお力になる事が誇りだった。
その誇りをコイツ等が汚したんだ。
許せない!
予言を免罪符にする愚か者がっ!
この手が、足が自由だったなら今直ぐにでもコイツ等を八つ裂きにしてやるのに!!
「誰の許可を得てアニスを罪人として扱っているのですか?」
凛としたイオン様の声にハッと眼を向けた。
イオン様の隣にはマリア様がいて、後ろにはアリエッタとシンク、アッシュが控えている。
「ロメリア・マークス、スパイ行為及び詐欺罪、隠蔽罪と沢山あるね。アニスに罪を被せたつもりだったの?」
ツラツラと読み上げられる導師守護役長の罪。
「アリエッタ、アッシュ、罪人を捕らえて下さい。」
イオン様の言葉で彼女は抵抗する間もなく捕らえられた。
「アニス、遅くなってごめんなさいね。」
マリア様が申し訳なさそうに私の縄を解いて下さった。
私は罪人なのに…
フルフルと首を振ればマリア様は私の頭を撫で
「アニスには何の罪もないのよ。そう…罪は彼等にあるわ。」
きっぱりと私には罪がないと断言して下さる。
「導師様、私達は予言に詠まれていたのです。」
「私達に何の罪があるのでしょうか?」
愚かしくもイオン様の許しも無く口を開くなんて!
「ねぇ、アニスちゃん。貴女からも導師様に言ってあげて頂戴。」
「そうだよ、アニス。私達の娘なんだから!」
口々に自己中心的な言葉を吐く両親に私は吐き気がした。
あぁ、やっぱりコイツ等を殺して私も死んで償わないと!
そんな決意も
「タトリン夫妻、何か勘違いなさっていませんか?アニスは、我がケムダーの次期長となる者。アニス・グレイスです。お前達の娘ではない!」
マリア様の言葉で我に返った。
「そんな筈はありません。だってアニスちゃんは私達の子です!」
悲鳴を上げる彼等に
「ダアトの導師イオンと始祖ユリアの名においてオリバーとパメラの子ではなく、ケムダーの後継者アニス・グレイスだと僕が証明しましょう。」
イオン様が彼等の言葉を切り捨てた。
「罪人は、罪人らしく、死んで、下さい…です。」
アリエッタの兄弟が彼等に圧し掛かり押し潰す。
私はマリア様に腕を引かれその場を離れた。
後ろで彼等の断末魔が聞こえたけれど私には届かない。
「アニス、私の大事な娘。貴女はケムダーの次期長になる子供。貴女を助ける術がなくて、勝手に決めてごめんなさいね。」
大好きなマリア様の腕(かいな)に抱かれているのだから!
どんな重い役だって構わない。
だってマリア様のお役に立てるんだもん。
「ママ、ママ…」
私の自慢のママ。
ロード・ドロア(救いの御手)に抱かれたと歓喜する少女は、狂気の魔女の腕の中。
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手引きはアニスの両親
アニスは入団後にアニス・グレイス(主人公より)になっているので家族の縁は切れているので親類刑にはならない。
アニス、両親にぶっちぎれ
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bkm