ギルティ(深淵の乙女)

-SIDE マリア-



太古の英知の結晶であるパッセージリングを見つめる。

「アッシュ、準備は?」

隣で控えているアッシュを見れば、大丈夫だと頷いた。

アッシュが両手をパッセージリングへ向け超振動を放つ。

「Singen wir ein Lied, das eine Öffnung dreht. Ich bete. Ich treffe meinen Anruf bei der Dunkelheit eines tiefen Abgrundes mehr und hänge hinunter…Königserscheinung einer lebenden Person,Maxwell(始まりを紡ぐ唄を謡おう。私は願う。深き深淵の闇の中より我が呼び声に応えて来たれ…マクスウェル。)」

分子を司る精霊マクスウェルを召喚した。

“おやおや、ギルティ(深淵の乙女)やっと呼んでくれたね。”

クスクスと笑うマクスウェルに私は溜息をぐっと飲み込み

「アッシュの超振動の補佐をして欲しい。」

頼みごとをする。

“そうかい、そうかいギルティ(深淵の乙女)の頼みであれば叶えてあげるよ。”

ニンマリとチャシャネコが嗤うように楽しそうにアッシュを見ているマクスウェルは

“但し対価を払ってくれるならね。”

寄越せと強張った。

俗塗れの精霊め、と思いつつも私は予測範囲内だった為

「分かったわ。」

了承の意を示す。

“交渉成立だ。”

アッシュの超振動はマクスウェルの補佐を受け、汚染された第七音素はマクスウェルの元で分解されアッシュの力で再構築されていった。

「アッシュ、レプリカルークが超振動を放った時に自動的に大地降下するようにパッセージリングに指示を出しておいてくれない?」

私の言葉にアッシュが頷きパッセージリングに細工を施していく。

“ギルティ(深淵の乙女)、私にも構っておくれよ。”

クスクスと楽しそうに嗤うマクスウェルに私は

「はいはい。今回の報酬はお種戻しで良いかしら?」

適当にあしらい報酬を提示した。

何故か俗塗れの精霊は日本式の神事(かみごと)もどきを好いている。

“それで良いよ、ギルティ(深淵の乙女)。というか奮発したね!他に何か頼み事でもあるのかい?”

随分と察しの良いマクスウェルに

「パッセージリング遠隔操作の為だけ君を喚(よ)ぶわけがないでしょうに…もう一つの頼みごとが本命かな。」

本命の頼みごとを告げた。

マクスウェルはケタケタと愉しそうに嗤って

“君はあの頃と変わらないねぇ。”

しみじみと述べてくれる。

あの頃と変わらない、ね。


あの日、あの時、あの場所で、マリアという女は一度死んでいるのよ。

死者がどう変わるのかしら?





-SIDE 精霊マクスウェル-


人間とは傲慢な生き物だ。

傲慢な生き物を守ろうと必死になるローレライの気持ちが理解出来ないね。

何度も星の記憶を遡り遣り直す人生なんてナンセンスだ。

あいつはドMなのか?

うん、きっと真性なんだろう。

でも好い加減つまらないんだよ。

何度も星の記憶を好き勝手にしてくれて良い迷惑なんだ。

私の眷属である彼等もローレライに憎悪の念しか抱いてないからね。

元来ドSであるノームにしたら瘴気に汚染されるのは苦痛で仕方ないだろうね。

ドSといえば、ウンディーネもそうだっけ?

Mといえば、イフリートしか思い当たらないんだけど…?

あぁ、まぁ…何だったけ?

話が反れたけど、あぁ、ローレライが余計な事を仕出かしてくれたんだ。

頭の足りない異世界の娘に力を与えた事だね。

ユリアとの契約の時もそうだったけど、本当に奴は頭が足りてないんだと常々実感したよ。

ユリアも大概愚かな娘だったけれども、異世界から連れ込んだ少女はもっと愚かで醜かった。

虚栄心と自愛を満たしたいだけの妄想癖の激しい少女にしか見えなかったね。

しかも肉体と精神が見事にチグハグじゃないか!

我等が住まう星すらも壊す気でいるのか、あの愚者は!

精霊王であるオリジンはキレてたっけ…

消滅で済めば良いな、ローレライ。

ん、ん??

また話が反れた。

あぁ、あの馬鹿(ローレライ)は、肉体を入れ替えした女を狭間の世界に放置しやがったんだ。

有り得ないだろう?

唯でさえ時空が歪んでいるにも関わらず、不可を掛かる要因を狭間に放置するなんて。

入れ替えした側の女を消していけば良いものを、ローレライは星を消滅させたいのか?

仕方なしに私は入れ替えした女を殺そうとした。

しかし彼女は私の存在に気付き

「私を消すのですか?」

気負う事もなく感情を殺して問い掛けてくる。

“私の存在を感じ取れるとは、異端者は面白いねぇ。”

ウッソリと嗤えば彼女は

「私を私と入れ替えをした魂の持つ人間がいる世界へ送って頂ければ、もっと面白い物を御見せする事も出来ますわ。」

冷然とした笑みを湛え

「…そう、神殺しの咎を私は喜んで受け入れる事でしょう。」

ローレライを殺すと宣言した。

“あはははは、面白いね!君がアレを消してくれるのかい?唯人であるお前が?”

異界の人間が?

と問えば、彼女は気分を害した様子も無く

「人の身で出来るのは、彼等が一番大事である宝物を壊す事。消滅を望むのであれば、消滅させられる力を得る必要があるでしょう?」

所詮は愚かな人間ですもの、と嗤う彼女は暗に武器を寄越せと言って来た。

この私に、だ。

“ふ〜ん、まぁ理に適っているね。でも君を生かす必要もないわけだ?”

揺さぶりを掛けても彼女の感情はブレることなく

「えぇ、生かす必要はないわね。でも、私達が生きていた世界にいる神々はどう思うかしら?高々下っ端の神もどきの仕出かした後始末に何を感じるかしら?一人は望んで世界に来たとしても、もう一人は無理矢理連れて来られた。」

嫣然と嗤いながら

「自分の意思で世界に行くのと連れて行くのでは何もかもが違うもの。だからアナタは私を彼女が行った世界に私を送らざる得ない。でしょう?」

痛い所を突いてきた。

“良いだろう。あの世界へ送ってあげるよ。但し、武器になる者達を説得するのは君自身だ。私は君を送り出すだけで見ているよ。”

「あら、有難う。それで十分だわ。」

“まぁ、私も鬼ではないからね。君の味方に成り得る人間の元に送ってあげるよ。”

彼女は綺麗に嗤った。

きっと私の意図に気付いたのだろうね。

ふふふ、あははは!

面白いね。

どんな未来(物語)を紡いでくれるのだろうか?

きっと今までに視た事も無い世界(未来)だろう。



その心(うた)は深淵なる闇との契約



エレメンタラーになる切欠話


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