光の民(アメン:隠れたるもの)



-SIDE マリア-



人という生き物は優劣を付け差別する生き物である。

異端を嫌悪し排除する醜悪な生き物だとサザンクロスは語った。

しかし醜悪な反面、一旦受け入れれば柔軟性をみせる生命力溢れる生物とも告げた。



親善大使としてルークがバチカルから出発したのは数日前の事。

私は表向きはキムラスカまでのイオンの護衛だったので、表面上は和平を受け入れたキムラスカに留まる必要は無い。

イオン達はダアトへ戻り、私達はケムダーへ戻った…表向きは。

譜業都市と謳われるだけある、と私は笑った。

音機関の双璧であるベルケンドは、シュリダンと違い学者が多い。

私はアッシュとシンク達と待ち合わせしている宿へ向かった。

「「アリス!」」

二人して駆け寄ってくる姿はどこか微笑ましい。

『アッシュ、シンク、久しぶり。』

音機械を通した私の声の二人は不機嫌な顔になった。

「その声で喋られると違和感しか沸かねー」

「本当にね、ディストももっとマシなのを作れば良いのにさ。」

ヒョイっと肩に乗せてあった譜業人形を摘むシンク。

「此処には俺とシンクとアリスしかいないんだぜ?」

バッサリとローブを剥ぎ取るアッシュに私は溜息を吐いた。

今の今まで我慢してきてくれたのだ…

音を遮断する為、シルフを呼んで譜韻を部屋に施した。

「MEIKOを手荒に扱わないでくれるかしら?」

MEIKOを摘んでいたシンクの手からMEIKOを取り上げる。

「へぇ、そいつMEIKOって言うんだ。」

ジロジロとMEIKOを見るシンクに
『レディをジロジロ見るなんて餓鬼だな。』

ペロっと本音を零す譜業人形(MEIKO)。

「オカマ声に言われたくないね。というかレディってどこにいるのさ?」

辛辣なシンクの嫌味に

『Master、イケテナイ2歳児にお仕置きしても良いですか?』

殺(や)る気満々で聞いてきた。

語呂が増えたのは良いことだけれども、何処から覚えてきたのかしら?

私そんな言葉を覚えさせた記憶は無いのだけれど…

MEIKOにどんな機能を搭載したんだ、ディスト。

呆れてシンクとMEIKOを見やれば仲良く喧嘩を始めた。

「「はぁ…」」

互いの吐き出した溜息に発信源を見やる。

「……アッシュ、報告会しようか…(シンク抜きで)」

「そうだな、話が先に進まねぇーし…」

こうして私はアッシュにダアトが何処まで動いているのか、ヴァンの動向などアザリーから受けた報告と照らし合わせ情報交換した。

「マリア、辛くないのか?」

ポツリと訊ねてきたアッシュの言葉に

「おやおや心配してくれているのかしら?」

ふふ、と笑って誤魔化した。

粗か様な私の誤魔化しにアッシュの眉間に濃い皺が出来る。

「ちっ…今は誤魔化されてやるよ。だけどな、この戦いが終わったら何処にも行くなよ。」

何処か見透かした眼で私を見るアッシュに私は苦笑いをした。

「ちょっと何二人だけで話ししてんのさ!」

『Master、私よりも赤鶏と2歳児が大事なのか?』

仲良く?会話に参加するシンクとMEIKOに乗せられアッシュは二人に言い返し、騒がしくなる。


罪を背負う魔女は自嘲する。

彼女は箱庭(世界)に波紋を投げかけたのだから!



******************





-SIDE メイサ-


私は人間ではないレプリカ。

人間を模写した複製品だと私を作った人間は言いました。

私より以前に作られた姉妹達は、感情(心)が芽生える前に慰み者にされ音素帯へ還っていったのです。

人の欲で作り出し、人の都合で捨てられる私達に人権は存在せず、罪科に問う事すら叶う事も無く、私達は日々怯えて暮らしていたのです。

しかし数年前からレプリカである私達を光の民(アメン)と呼ぶ人間が出てきました。

そして私はマリア様と出会ったのです。

「君がこの地の光の民(アメン)の纏め人かな?」

キラキラと光る音素の祝福を受けたマリア様の言葉に、その時の私は愚かにも

「光の民(アメン)なんてものじゃない。私達はレプリカだ。」

自分達の存在を否定した。

そんな私にマリア様は

「あぁ、此処ではそのように呼ばれているのでしたね。」

気分を害したわけでもなくニッコリと優しく微笑んだのです。

「何故、我等を光の民(アメン)と呼ぶ?」

私の素朴な問いにマリア様は

「レプリカなんて生きている者達に対して冒涜しているから馴染み易く光の民(アメン)と呼んでいるのよ。人の業より作られた、人よりも精霊に近しい者。だから私達は光の民(アメン)と呼ぶの。」

愛おしそうに笑ったのでした。

私達はマリア様のケムダーの支援を受け、オールドラント各地で生きていけるようになったのです。

同胞との出会い、被験者との溝、恩人であるマリア様の思想、経験していく全てが私達の糧になったのです。

あの出会いより数年、マリア様は忌まわしい事に我等の体を構築している第七音素の大元と言えるローレライとキムラスカの聖女と呼ばれている少女、我等の同胞に殺されかけたと聞いた。

アザリー様より知らせを受けなかったら光の民(アメン)はローレライに聖女に反旗を翻していた事でしょう。

星の消滅を願う聖女など、神(ローレライ)など消滅(きえ)てしまえば良い!

と何度呪った事だろう…。

マリア様は名前を変え、姿を隠し、予言の年になるまで世界各地を回られていました。

そしてついに予言に反逆する年(とき)が来た。

紫を基調としたケムダーの礼服がマリア様のお姿を引き立たせる。

「久しぶりだね、メイサ。」

「お久しゅう御座います、マリア様。」

私達、光の民(アメン)一同はケムダー流の臣下の礼を取った。

「光の民(アメン)、幼いお前達を戦力に加えてしまう私を怨んでおくれ。」

マリア様はユックリと膝を着き

「どうか顔を上げておくれ、愛し児よ。10にも満たない幼子を兵士と扱う事に嘆いておくれ。だが、怨むのは私だけにして欲しい。多くのケムダーやダアト、マルクトの民は光の民(アメン)を戦力に加えるべきでないと言ったのです。彼等の反対を押し切った非道な女である私は魔女と断じてくれても良い。」

自らを怨めと言う。

確かにマリア様から見て我等は生まれて間もない子供でしょう。

ですが、レプリカと蔑まれていた我等を救い上げて下さったマリア様だからこそ立ち上がるのです。

「我等は光の民(アメン)の誇りに賭けて嘆く事も恨む事も御座いませぬ。ケムダーがマリア様の剣であるならば、光の民(アメン)がマリア様の盾となるとあの日に決意したのです。」

貴女が神(ローレライ)とキムラスカの聖女、我が同胞に殺されかけたと聞き及んだ日に…

「此処に集う光の民(アメン)は、マリア様の盾となる事を誇りに思ってます。」

光の民(アメン)として生きる為に我等は我等の意思で立つのです。






誇れ光の民(アメン)よ。

その無垢な魂と心は神(ローレライ)の手が及ぶことは無い!

人の業より生み出されし光の民よ、恐れることは無い。

ただ差し伸べられた手に縋れば良いのだから…


著者:メイサ・ケリー


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