-SIDE マリア-
マルクトとは正反対の気質だと常々思った。
光の王都バチカル。
ルークの隣にはイオンとジェイドがいる。
イオンの隣にはアニスとカンタビレが控え、ジェイドには彼の副官が控えていた。
私とティアは後方で彼等を護衛する形を取っている。
まぁ、ティアの場合は事故でルークを外に連れ出してしまったという罪科があるのだけれどどうにでも出来る。
此処は預言傀儡 の国キムラスカ。
似非聖女様は一応は客人として扱ってはいるが、貴賓として扱っているわけではない。
キムラスカのお姫様の根回しで彼女がルーク・フォン・ファブレと一緒に飛ばされたという報告は受けてないし、保護も聖女様の件は何も書かれていなかった。
愚かな嫉妬ゆえの行いが、マルクト有利に条約を立てられる事になる事でしょう。
あぁ、でも…戦争をするのだから条約の意味も最早紙屑以下なのでしょうね。
クツクツと道化の彼等を嗤った。
**************
マルクトの礼服は白、ダアトは緑、キムラスカが赤であれば、ケムダーは紫を基調としている。
本来なら登城する事も許されぬ身分である筈なのに一緒に謁見の間に連れて来られた。
どんなに豚さんが喚いても事前にマルクトより和平の使者が向かう旨は通達してあるし、豚さんよりも高位のダアト最高指導者イオンが仲介して、マルクトの使者ことジェイドがいる上でマルクトは戦争を起こす気なのです!
と声高々に喚いても全うな人間であれば鵜呑みにしないと思うのよ。
あぁ…でも戦争を起す気でいるのは本当よ?
ただ、それを表面に出さないだけで…ねぇ。
淡々と面白味も無く進んで行く物語に私はクツクツと嗤った。
そしてルークが親善大使になりアクゼリュスへ派遣される事が決まった事でお開きとなったのだが、何故か私はキムラスカの王女に呼び止められている。
「お待ちになって!」
キムラスカ流の礼を取れば、ナタリア王女は何を思ったのか
「まぁ!ケムダーの者は礼儀を弁えているのね!キムラスカ出身でしたの?」
なんて都合の良い解釈をするのかしら?
『我らケムダーの民には故郷はケムダーしかありませぬ、キムラスカの姫。ケムダーは世界を駆ける者達が集う場所。故に各国の礼法・作法・儀礼を重んじるのです。』
遠回しの嫌味もナタリア王女に通じる筈も無く
「まぁ、そうでしたの。あぁ、わたくしの事はナタリアで宜しいですわ。そういえば、ケムダーはギルドで名高いセラフィムとは普段はどのような仕事をしているのかしら?」
興味津々とばかりに私を見た。
あらあらギルド長とはいえ、平民に名前呼びさせるなんて後ろに立つ護衛や遠巻きに見ている貴族達が異様なモノを見るかのように貴女を見ているわ。
血の繋がりは無くとも育ての親と同じように空気が読めないのは似た者親子なのかしらね。
国家の威信も彼女の前ではチリに等しいのかもしれないわ。
忠告してあげる義理なんてないのだけれども。
『…護衛や魔物の討伐が主でしょう。』
当たり障りの無い返答をすれば、彼女は興味が反れたのか踵を返した。
ふふ、きっと聖女様を排除出来る駒が欲しいのよね。
だから私は
『ただ、稀に特殊な任務を請け負う事も御座いましょう。』
嘘でも本当でも無く、想定を告げた。
これで一つマルクトがキムラスカを責める開戦理由が生まれる。
砂上の楼閣に成る偽りの和平。
物語は当に幕を開けている。
さぁ、さぁ、英雄さん。
さぁ、さぁ、聖女様。
立派な舞台にしておくれよ!
わらう、ワラウ、笑う、嗤う、哂う、思い遣り(心)を捨てた魔女。
prev next
bkm