オールドラントの流通の拠点とも謳われるケセドニアで、私はケムダーのギルドとジェイドはアスランの師団と、イオン達はカンタビレとその師団と合流した。
「お久しぶりです、アリス様。」
臣下の礼を取るアザリーに
『急遽呼び立ててすまないな。』
立ち上がるように促せば、彼女は少しだけ寂しそうな表情を一瞬だけ見せた。
『ダアトでの事は聞いているな?』
優秀な彼等の事だからヴァンの行方ぐらいは掴んでいる事だろう。
アザリーは私の問いに是と答え
「大罪人が脱獄したという話ですね。」
テキパキと手に入れた情報を渡してくれた。
彼女達の有能さには頭が下がる思いがするわ。
「潜伏先としてはキムラスカのベルケンドかと思われます。あと…申し上げ難いのですが、手引きした者が判明致しました。今はカンタビレ響手の師団で拘束されております。」
私はアザリーのその先を促せば、有得ない人物の名前が出た。
『……これは私の落ち度だな。』
預言に頼る者が多いダアトで、彼等に監視を着けていなかった事こそが私の落ち度なのでしょう。
切り捨てるという選択肢もあるのでしょうね。
でも、どうしてかしら…
失いたくないという気持ちが強いの。
守るべき存在(モノ)が多くなれば、本懐は難しくなるのに…
頭では理解していても心までは納得しない。
『優先するは、脱獄した大罪人だ。これから先はグランツ総長の指示の元、討伐を行ってくれ。あの子にはまだ此の事を伝えるな。』
幸い、今の私であれば何とか出来るものだから…。
そんな私の言葉にアザリーはフワリと笑う。
アザリー率いる部隊は、ダアト、マルクトと連携を取ってヴァン捕縛の為に動き出すでしょう。
私は聖女様達に向って歩を進める。
***************
「大所帯になりましたねぇ。」
ポツリと呟いたジェイドの言葉に
「仕方有りませんよ。導師の僕と和平の使者であるジェイド、ケムダーのギルド長が終結しているのですから。」
ニコニコと笑うイオン。
ルークと聖女様の存在を意図的に抹消している事に気付いたジェイドはズレてもいない眼鏡を掛け直した。
『導師様、使者殿、情報が入りました。フリングス少将、カンタビレ響手もお久しぶりです。罪人の潜伏先ですが…』
イオン達にアザリーから受けていた報告を伝えようとした所で聖女様が割って入ってきた。
「ねー何の話をしてるのぉ?」
不敬罪も良い所である。
キムラスカの聖女として崇められているらしいが、正式な地位はない。
本来なら首を刎ねるなり、投獄されるなりするのが通例だが、キムラスカの愚王が五月蠅いので手を出せないでいた。
ルークも聖女様の行動が異常だと理解出来ているのか眉を諌めている。
私、イオン、ジェイドは溜息を吐き、聖女様に初めて会ったアスランは珍獣を見るような眼で彼女を見ていた。
気持ちは解るのだけれども、ね。
「もしかして私とルークの護衛ぃ??」
ルークは解るけど何で貴女の護衛が必要なのか解らないわ。
だって未だにキムラスカから聖女様の捜索願は出されていないのよ?
まぁ、その理由も憶測ではあるけれど解るけれども…
女の嫉妬は怖いわね?
『キムラスカの聖女殿、これはダアトとマルクト、ケムダー間の問題です。聖女殿がお気になさる事では御座いません。』
スッパリとヒメコの次の言葉を遮った。
暗にお前は要らないのよって突付けられた事実に気付かない彼女は
「アンタには聞いてないわよぉーヒメコは、イオン達に聞いてるの。」
顔は自分なのに気持ち悪いと思ってしまう仕草に私は眩暈を覚える。
イオンの後ろで控えていたアニスが前に出てイオンを庇う。
「イオン様、お下がり下さい。此処は日差しも強う御座います。」
イオンの体調とストレス具合をキチンと把握して休ませようとするアニスの行動に
「ちょっと!私はイオンとも話しをしてるのよ。護衛如きが口を挟まないで!」
聖女様が怒鳴りつけた。
その表情は鬼のようだったわね。
ダアトの最高指導者をこうもコケにされて腹が立たないわけがないでしょうに…
ティアやアニス、カンタビレは勿論のことダアトの一般兵も貴女を憎悪の眼で見ているわよ。
「導師イオン、こちらへ」
カンタビレがイオンとアニスを安全な場所へ誘導する。
イオンが欠けた事でターゲットは見目の良いアスランとジェイドに向った。
彼女はどこまで墓穴を掘ってくれるのかしら?
ふふ、とっても愉しみだわ。
それは美しい、ブラッディ・グラビティモール(紅き砂漠)は、まるで開戦を告げる合図のように…
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bkm