「和平の使者にはジェイドに行かせる。」
俺の一言に議会はざわついた。
爵位もない軍人で只の左官で人間性に難有りな男を和平に向わせる事に難色を示す臣下に俺は嗤う。
「恐れながら陛下、カーティス大佐は和平交渉に向くタイプではないかと思われますが…」
臣下の進言は尤もな事だろう。
「キムラスカは和平を結ぶさ。聖なる焔にアクゼリュスを落として戦争をしたいと思っているんだからな。」
肘掛に肘を突いて彼等を見渡せば動揺を見せた。
動揺していないのは隣にいるアスランぐらいだろう。
「秘預言ではキムラスカの繁栄の為に俺の血で玉座を汚しマルクトは最期を向え、やがてオールドラントは滅亡するらしいぞ。」
マリアがダアトで集めた惑星消滅預言とその裏付するセフィロトの存在、パッセージリングの耐久年数や瘴気解析等の資料を提示してやった。
いくら愚者(ばか)でも此処まで証拠が揃えば何も言えないだろう。
「俺が即位してマルクトは預言から距離を置いたと言っても過言ではない。この情報はダアトの導師イオンの元に集められた物だ。」
星の滅亡はカウントダウンを切っている。
マルクトのオールドラントの未来が無い事に困惑と恐怖を見せる彼等に俺は
「キムラスカの聖女様は滅亡預言を知っているらしい。」
預言派な貴族達もまさか敵国とはいえ聖女と崇められている少女が惑星滅亡を知って公表しない事に疑問を持つ事だろう。
キムラスカの繁栄の為にマルクト滅亡を隠すのは理解出来るが、惑星滅亡に関して口を噤む事が何を意味しているか愚鈍な彼等も理解出来た筈だ。
「キムラスカは和平を結ぶ気なんて無いんだ。聖女様はキムラスカに惑星滅亡預言までは話していないだろう。精々キムラスカが知っているのはマルクトに戦争で勝つ所までだろう。だったら逆手に取れば良い。幸いダアトもケムダーの協力も得られる事になっているからな。」
マリアの根回しのお蔭だけれどな。
俺の言葉に一気に浮上した彼等を見て俺は嗤った。
「和平の使者をジェイド・カーティスにすることに異存がある奴はいるか?」
彼等を見回せば誰一人異を唱える者はいない。
滅亡を善しとするキムラスカとマリアを害した聖女様にはオールドラントから退場して貰おうじゃないか!
さぁ、舞台は整った。
孤高の王はウッソリと嗤う。
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「これでキムラスカと全面対決ですね。」
ニッコリと爽やかな笑顔を見せるアスランに俺は苦笑を漏らした。
「マリアの存在を否定したキムラスカの聖女様とキムラスカには滅んで貰わんとな。」
マリアの腹にはファブレ公爵子息のレプリカルークの子供が宿っていたとも聞く。
その報告を受けた時は腸に煮えくり返るかと思ったさ。
それ以上にマリアの命を狙った事は到底赦せるものではない。
「そうですね。」
いつもなら温厚で争いを好まない青年に俺はおや?っと思った。
「珍しいな、アスラン。お前が好戦的になるなんて…」
「大切な方を傷付けられて冷静になれる人なんていませんよ。」
ニコニコと笑うアスランの眼は笑ってない。
寧ろ報告書にあった似非聖女とキムラスカに対し憎悪しかないといった所か…
にしてもマリアも厄介な人間に好かれるな。
皇帝の重圧に耐え切れなくて何度投げ出そうと思ったか…
そんな中でマリアと出逢った。
仕草は洗練されているというのに言葉もオールドラントの常識も何も知らなかったマリアは異端で新鮮だったんだ。
何も知らない彼女だからこそ俺は皇帝ではなくピオニーであれた。
だからこそ赦さない。
マリアを害したローレライも似非聖女もキムラスカも……マリアの手を振り払い裏切ったルークレプリカも赦さない。
「アスラン、マリアはやらんからな。」
最初にマリアを見つけたのも、マリアを世界に馴染ませたのも俺だ。
誰にも渡さない俺の花。
誰よりも強く儚く脆い女だからこそ俺はマリアを愛している。
ニッコリと佇む右腕は何を思うのだろうか…
エーデルワイス、エーデルワイス、その真白(ましろ)に咲く美しき花よ、捧げよう。
千の民、万の民の為に聖女と呼ばれる少女の血で染め抜こう。
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追記:
私の中のマルクトのイメージの花がエーデルワイスです。
因みにマルクトの礼服は純白だと信じて疑わない私です(笑)
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bkm