-SIDE マリア-
想定内といえば想定内だなと私は嗤った。
でもティアまで巻き込んでくれるとは思わなかったけれども、ね。
「ねぇ、フード取ってよ。」
相変わらず馴れ馴れしい聖女様の言葉に一同唖然としていた。
『……断る。』
彼女の命令を一刀両断すれば
「何で?私が顔を見たいって言ってるんだよ。減るもんじゃないんだから見せても良いでしょ。」
何て自己中心的な考えなのかしら。
貴女が切望した彼等の表情(かお)を見えてないのね。
『見世物ではないのだがな。』
「別に見世物とか思ってないわよ。失礼ね!私はキムラスカの聖女で、貴賓なのよ。身分制度も弁えてないわけ?」
あらあら、そんな発言して大丈夫?
彼等の貴女を見る眼は、まるで珍獣を見ているようよ?
教えてあげないけれども。
聖女様の後ろにいるイオン達は貴女の事を今にも殺しそうな眼で見つめているわ。
『ふふ、お前が?冗談だろ?貴賓は事故で飛ばされたキムラスカ第三王位継承者のルーク様、ダアト最高指導者のイオン様だけだ。キムラスカからお前の保護の連絡は入ってないが?』
ジェイドに確認を取れば胡散臭い笑顔で
「そうですねぇ〜ルーク様の保護はキムラスカより連絡が来ているんですけど、貴女の保護は連絡来てませんね。私としては不法侵入で拘束したいんですよね。」
聖女様の保護要請は来てないと断言した。
ボソリと不法侵入で拘束するという言葉については彼女には聞こえて無かったようだ。
「えぇー!嘘でしょージェイド、冗談でも面白くないよ?」
ケラケラと冗談だと笑い飛ばす聖女様にジェイドの端整な顔が歪む。
ジェイド、ポーカーフェイスが崩れているよ。
それに気付いた様子もない聖女様。
ニタニタと笑う彼女は私のフードを剥いだ。
「キャーーーーー」
劈くような悲鳴に私は眉を顰める。
「な、な…キモっ!近寄らないでっ!!」
言うに事欠いてそれ?
まぁ、顔半分以上火傷の痕の特殊メイクだもね。
にしても自称でも聖女の言う言葉ではないと思うのだけれども?
聖女様の態度にイオン達は勿論の事、ルークも貴女の態度に腹を立てているみたいだよ?
「何アレ…アリスのフード剥いでおいて気持ち悪いってアンタの方がキモいっつーの!」
ボソっと呟かれたアニスの言葉にダアト組は頷いていた。
『キモイねぇ…聖女様とは思えないね。ジェイド、どうやら私は(自称)聖女様の気分を害したようだ。少し風にでも当たりに行って来ても良いかい?』
私はジェイドに告げ部屋を出た。
ねぇ、聖女様。
貴女が欲しがったイオン達の高感度はコロコロと坂道を転がるように転げ落ちているわ。
-SIDE ジェイド-
エンゲーブにて補給を済ませ、私はマリアと合流を果した。
マリアとはピオニーを通して知り合ったのだが、その話は追々としましょうか。
彼女との合流で一番喜んだのはイオン様とアニスでしょうね。
表向きはケムダーからの護衛だが、彼女の本当に任務は和平でもし失敗した時の為の私の護衛。
預言に侵されているキムラスカは多分和平を結ぶでしょうね。
しかし予想外な事が一つだけ起きた。
ダアトの女軍人とキムラスカ第三王位継承者のルーク・フォン・ファブレ、キムラスカの聖女と呼ばれている少女の三人との遭遇。
ダアトの女軍人の名前はティアでしたか…
彼女とルーク様の言い分では事故でタタル渓谷に飛ばされたとの事ですが、キムラスカの聖女様曰くティアに誘拐されたらしい。
らしいというのは、あくまで彼女だけが誘拐されたと主張しているからだ。
言動も行動も怪しい少女を信用するに値しない。
「ジェイド」
ニッコリと笑うイオン様の眼は笑っていない。
ヒンヤリと漂う殺気に控えていた兵士達がビビッてますよ、イオン様。
「アレをサクっと殺って来てくれませんか?」
ちょっくらお使いにでも行って来いとばかりに殺人宣告するイオン様に私はズレてもいない眼鏡を掛け直した。
誰だ?
純粋無垢な導師様と言った奴は!?
「一応アレも重要参考人なので…」
不法入国者ではありますが、キムラスカに事実確認する前に処分して問題になったら困るんですよ。
と告げれば物っ凄ーく不満そうな顔をして拗ねた。
「ジェイド、イオンってば此処に居たんだぁ〜」
空気の読めない聖女様は、何故か私達の周囲をうろつく。
機嫌が一気に急降下したイオン様と殺気で聖女様を牽制するアニス、嫌悪の眼で聖女様を見るティアのダアト組にもメゲナイ彼女の思考回路は残念な作りになっているんでしょうかね?
「さっきは本当にビックリしちゃったーヒメコ、物凄く怖かったよー」
マリアの特殊メイクに怖がる振りをする聖女様を見る目は厳しい。
無理矢理、マリアのローブを剥いでおいて怖かったって頭大丈夫ですか?
これがキムラスカの聖女様とはお先真っ暗でしょうね。
彼女はペラペラとローレライから得た力を自慢していた。
それと同時にマリアを同乗させる事に対し文句を言ってくる始末。
マリアの同行はマルクト皇帝の勅命であり、イオン様の希望でもあるのだ。
私はそれとなくイオン様達から聖女様を遠ざけた。
一応、自称キムラスカの聖女様なので賓客室に案内させておく。
案内し終わった兵が
「カーティス大佐、事故に見せかけて始末したらダメですかね?」
なーんて呟いた私の部下の発言は聞かなかった事にした。
気狂い聖女様の相手は大変だったのですね。
特別手当でもあげないとダメかと本気で悩みましたよ。
世界が自分中心に廻っていると思っているなんて滑稽ですね。
暗雲立ち込める行く末にスクルド(義務)は困惑する。
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bkm