-SIDE アニス-
アレは何!?
キムラスカの聖女と呼ばれる女の口から出てくるのはティアの悪口ばかり!
違う、違う、違うもん。
ティアは優しくて良い子なんだから!
私の大事な友達なんだから!
マリア様を傷付けた癖に、何でノウノウと生きていられるの?
ギュウギュウといつの間にか握っていた手の上から少しだけ冷たいイオン様の手が重なった。
「アニス、血が出ちゃいますよ。」
大丈夫、大丈夫と気遣ってくれるイオン様に私は深呼吸する。
「はい、イオン様。」
でも許せないんです。
「ティアが彼等を誘拐するなんて有得ないと思いませんか?」
マリア様から色々と教わったティアが教団を危険に晒す様な愚かな真似はしないもの。
私の問いにイオン様も
「そうですね。ティアがダアトの不利益になる事をする筈がないと思います。それにしてもキムラスカの聖女…胡散臭いですね。」
嫌そうな表情(かお)でキムラスカの聖女様を見ていた。
ティアが罪人になっちゃうなんて嫌だよ。
擬似超振動が何で起こったのか解らないけど、絶対にティアが原因なんじゃないもん。
ペラペラと大佐に喋る聖女様に私は殺意が湧いた。
「……でぇ、ティアとルークとの間に超振動が起こってタタル渓谷に飛ばされたんですよー。私はルークが心配で手を伸ばしたら巻き込まれちゃったんですけどねぇー」
ウッザい!
「超振動なんてそうそう起こるものではないと思うのですが?」
イオン様の素朴な疑問に聖女様は
「イオン、私の事はヒメコで良いってばぁー変わってないなー」
答えになってない言葉を紡いだ。
本当に図々しい女。
「…話になりませんね。」
ポツリと呟かれたイオン様の言葉に気付かない聖女様。
ティアも心配そうに私達を見ていた。
キムラスカなんて滅んじゃえば良いのに!
聖女様は何を思ったのか
「そっだ!アニスだよね?私の事はヒメコで良いよ。仲良くしよーね?」
生温い手で私に触れようとした。
気持ち悪い!
触らないでっ!
と心の中で悲鳴を上げる。
でも私は導師守護役だから我慢した。
マリア様、マリア様、マリア様…
気持ち悪いの。
アイツ等と同じなんだもの!
グラリ、グラリ、グニャリと歪む世界。
****************
何て失態をしてしまったの!
気付いたらベットの上だったなんて、有得ない!
情けなくて涙が出そうだよ。
タルタロスの一室に寝かされていた私は有得ない失態に頭を抱えてしまった。
イオン様、暴走してないと良いけれど…大丈夫かな?
「イオン様の所に行かなくちゃ…」
あの気持ち悪い聖女様の傍に置くなんて危険極まりないもん。
ティアがいるから大丈夫だと思うけど…
身体を起こしベットから抜け出そうとした時、トントンとドアをノックする音が聞こえた。
ティアかな?
「どうぞぉー」
入室を許可すれば会いたくもない奴が我が物顔でズカズカと部屋に入ってきた。
「アニス、大丈夫?急に倒れちゃったからビックリしちゃったよぅ」
心配もしてない癖に心配したという聖女様に吐き気がする。
いつもならイオン様かシンク、アッシュに纏わり着いてウザイのに何で私の所に来たのか理解出来ない。
理解出来ない私を余所に聖女様はベラベラと喋り続けた。
気遣いの欠片もない女だ。
フツフツと湧く殺意をシーツを握る事で紛らわす。
「私はアニスの味方だからね!」
自信満々に何を言うのだ、コイツは!?
いきなり味方発言に唖然と聖女様を見れば自分の世界に飛んでいた。
言葉も出ない私に聖女様は自己完結して
「私、アニスが両親の事を大事にしてるのを知ってるし、モースに借金して両親が人質に取られている事も知ってる。大丈夫、大丈夫、もー大丈夫だよ!私が助けてあげる。」
ニコニコと有りもしない話をし始める。
何を言ってるんだ?
「もうスパイなんてしなくても良いんだよ!?」
私はスパイなんてしてない!
両親なんて愛してない!
何なんだ!?
本当に何なんだコイツは!!
得体も知れない存在(もの)を見る目で聖女様を見れば、彼女は何を思ったのか
「あ、私が何で知ってるのかって事だよね?えっとね、ローレライが教えてくれたの!」
荒唐無稽な言葉を吐いた。
馬鹿にしてるのか!?
と怒鳴ろうとしたが、ある事に気付く。
そう、預言だ。
この目の前の女は預言を詠んだかのように“もしも”の世界の私の事を話しているのではないか?
“もしも”両親を愛していたら私はモースのスパイになっていた。
“もしも”私にマリア様と出会わなければ、私はモースのスパイになっていた。
全ては“もしも”の話。
でも思う。
そういう未来があったんじゃないの?って…
込み上がるのは怒りだろうか…それとも?
目の前にいる女の眼は、物語のキャラクター(登場人物)を見る眼だ。
預言という物語を詠んで、キャラクター(登場人物)を自由に動かしたいと思っているんだ!
あぁ、何て忌々しい!!
ニタニタと笑う聖女様は自分の好きな事だけ伝えて部屋を出て行った。
「何よ…何なのよ…あの女……死ねば良いのに……」
ブツブツと吐き捨てられるのは怨嗟の言葉。
私の家族は彼等だけ!
預言、預言、預言に狂った聖女はウルド(運命)の激昂を買った。