ヴェルダンディ(生成する者)の憂鬱

-SIDE ティア-



兄さんが人類滅亡なんて大それた大罪を犯す前に捕まえられた事は何よりも幸いな事。

兄さんのレプリカは、兄さんと同じ容姿をしていても考え方は全く違った。

刷り込みがあってもまだ1歳にも満たないのに考え方は以前の兄さんよりも共感持てるものだった。

名前も皆で考えてつけたの。

“ユッグ”意味は世界樹。

滅亡しかない未来を回避する大きな礎の一つになれるようにと願った名前は、とても彼に似合っていた。

キムラスカとも距離を取り始めた教団は、ユッグを中心として改革されていく。

私は皆の後押しもあって、預言師になれた。

でもね、これは無いと思うのよ。

兄さんがキムラスカに入り浸っていた弊害が此処で出てくるなんて!!

キムラスカお抱えの予言師にでも預言を詠んで貰えば良いじゃない。

どうして私が預言を詠まなければならないの?

と憤慨やるせないのだけれども文句が言える筈も無く私は溜息を一つ零した。

絢爛豪華とはこの事を言うのね。

煌びやかな調度品はどれも高級な物ばかりで、一つあれば一年は生活していけそうだと感想を付けた。

「ダアトの予言師が来てるんでしょ?」

甲高い声に私は眉を諌める。

「先を知って何か良い事でもあるのか?」

新鮮とも思える疑問を抱く青年の声にそれを諌める青年の声。

キムラスカって上下に厳しい国だと聞いたけれども気安い国だったりするのかしら?

きっと彼等がファブレ家の重要人物なのだろう。

考えただけでも憎らしい…

開かれた扉に私は瞠目した。




「貴女が予言師??」

何処か探るような眼で私を見る聖女様に私はドロリとした黒い存在(もの)が心に沈下していく。

まるで私が此処に居る事に不満を抱いているような…

それでいて私の事を知っているような眼。

「ローレライ教団がオラクル騎士団。第五師団シンク師団長が旗本、第四小隊隊長のティア・グランツであります。」

嫌々ながら名乗れば困惑の表情を浮かべる男女。

何故?

私の年であれば小隊長を任されても可笑しくは無い。

「え?ティアってばシンクの…第五師団にいるの?」

馴れ馴れしい似非聖女様は私の言葉を信用してないようだ。

「はい、それが何か?」

私の疑問に彼等は何でもないと誤魔化した。

あぁ、本当に苛々する!!

「それでは、本日の預言を………です。」

彼等の不可解な視線に耐えて私は預言を詠み上げた。

中腹まで差し掛かった所で眩暈を起こす。

そう、引き摺り込まれるような感覚に私は身体を乗っ取られた。

ローレライ

私の大事なマリアさんを害した存在。

許さない!

赦さない!

滅びてしまえば良い!

呪われろ!

と心の中で神に等しい存在を罵倒する。

最後に目にしたのは朱金。

忌まわしい!

呪わしい!

お前に、隣で能天気に笑う似非聖女に奪われた光の子を返せ!

心は慟哭にも似た悲鳴を上げて暗転した。



マリアさん、私…誘拐犯になったみたいです。

愉快犯ならどれだけ良いか…

超振動で飛ばされるぐらいなら再構築されたくなかったわ。

ヴェルダンディ(生成する者)の憂鬱。





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