子守唄(レクイエム)

彼の手を拒まなかったのは、そこに打算があったから。

でも情もあったのは確かで、恋人のような愛は無かったわ。

それでも宿る新しい命に私は歓喜した。

私にとって希望だったのだから、とても嬉しかったの。

見知らぬ蘇る未来の記憶に恐怖するルークの手を取ったのは、紛れも無く私の意思。

だからルークが私が知るルークで無くなったその瞬間(とき)、愕然とした。

ローレライ!!

理を曲げるのか!

確かに彼もまたレプリカルークの魂なのでしょう。

でもこの世界のレプリカルークは何処にいったの?

喰らってしまったんでしょう!!

彼は彼でなくなり、聖女様とローレライの力が増した。

身の危険を感じ護衛を後任の者に任せ、ダアトに帰還する事が決まれば、何故かアノ子が着いてくると謂う。

嫌な予感しかしなかったのだけれども、拒める筈も無く、仕方無く同行させる事となった。

それが災いの引き金となった。

悪阻が酷く、体調も芳しく無かった私は、船室に早々に引っ込んでいた。

船の揺れが船酔いまでも引き起こしており、誰が見ても具合が悪いのが一目瞭然だったと思う。

「マリア、ちょっと話があるの。」

気分が悪いと寝ている病人を気遣う事も出来ない聖女様。

貴女の後ろで護衛をしている彼等を眼が冷めている事に気付いてないのかしら?

「ヒメコ様、大変申し訳ないのですが体調が芳しくなく、別の日ではダメでしょうか?」

小さな哀願は

「私が治してあげるわよ。さっさと行くわよ。」

強引に私の腕を引っ張りベットから引きずり出した。

鬼のような所業ね。

悪阻と貧血、船酔いの三重苦。

正に拷問とも言えたわ。

甲板に無理矢理連れてこられ離された腕にホッと息を吐いた。

人払いされて甲板にいるのは私とアノ子のみ。

彼女の後ろでユラリとザワメク第七音素に私は眉を寄せた。

「アンタ、何を企んでんのよ!?」

聖女とは思えない口調で私に問い詰める彼女に

「企むとは?」

シラを切った。

「シラを切るの?私は知ってるんだから!ローレライから教えて貰っているのよ。ルークを利用して何を企んでいるのよ!!」

彼女の身体から噴出する濃度の濃い第七音素が私の身体に纏わり憑く。

彼女の怒りに順応して締め上げられる身体に悲鳴を上げた。

「この魔女っ!!」

衝撃波と共に私の身体は呆気なく宙を舞う。

空高く上がる水柱を水面からユラユラと眺める私。

「私が世界を救う聖女なのよ!」

吐き捨てられた少女の言葉に私は嫌悪した。


次に目覚めた時、私は教団の医務室のベットの上にいた。

「マリア姉様、無事で良かったです。」

「マリア様!!」

「マリア奏手!」

ワンワンと泣き出すアリエッタに泣くのを我慢しているアニスとティア。

彼女達の後ろにはアッシュ、シンク、イオンが心配そうに私を見ていた。

「マリアが心配なのは解りますが、彼女には休養が必要なんです。出て行って下さい。」

ペイペイと医務室から放り出すディストに抗議をする彼等だが、悪化しらどうするんですか?

と問われて彼等は渋々部屋を退出した。

「マリア、貴女…妊娠してましたね。」

ディストの疑問符のない問いに私は頷く。

「……えぇ、子供は?」

私の問いに彼は首を横に振った。

「…そう……」

「貴女を助けた時には、もう手遅れでした。マリア、貴女に危害を加えたのは、あの子供ですか?」

憎悪を瞳に宿すディストに私は

「彼女とローレライよ。生まれると都合が悪かったのでしょうね…」

溜息と共に零れた言葉に彼は息を呑んだ。

「ディスト、悪いけど横になっても良いかしら?」

彼は分かりました、と何も謂わずに部屋を出て行ってくれた。



枯れたと思っていた雫(涙)は溢れて零れ落ちる。

美しく紡がれるは呪詛を唄う子守唄(レクイエム)


※補足
レプリカルークの子供を主人公は身篭ってました。そして平行線のレプリカルークと入れ替わった時にローレライと聖女様、平行世界のレプリカルークによって亡き者にされそうになります。主人公は死ななかったけど、子供は流産してます。喰われちゃった現行世界のレプリカルークの意識は少しだけ残ってます。


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