ヘカテー(黄泉へ導く女)
カツン、カツン、カツン…

薄暗い地下牢に続く通路を歩く音がした。

厳重に施された譜封印術式は牢屋に入れられた者の能力を奪う物。

憔悴と謂っても過言ではないぐらいにやつれた男に女は

「偽者のヴァン・グランツ。」

嫣然と嗤った。

「貴様っ!!」

憎憎し気にマリアと呼ばれた女を睨み付けるヴァンの視線も物ともせずに彼女は

「此処まで頭の悪いのは劣化したからなのかしら?ダアトに主総長はいるというのにお前はいつまで自分がヴァン・グランツだと主張するのです?」

クツクツと嘲笑った。

「そんな馬鹿な!マリア、貴様一体何をした!?」

堅牢な鉄格子をガンガンと叩いて壊そうとするヴァン・グランツに

「ホド戦争時にマルクトで作られ破棄されたレプリカは、お前でしょうに。あぁ、頭が劣化しているからあのような凶行に走ったのですね。納得しました。」

心底軽蔑したような眼差しを向けた。

「私は被験者だ!!」

「お前のような無礼者が被験者である筈がないでしょう。あぁ、レプリカでないのならフェンデ家の妾腹の子か何かでしょうか?」

女は手元に持っていた小型リモコンのスイッチを押した。

サンダーブレードと同じ威力の電流がヴァンに流れ込む。

呻くヴァンを見下ろし彼女は

「ダアトを権威穢した愚か者。グランツ総長の名を騙る偽者は、どれほど公爵家に詐欺を働いたのです?まぁ、ダアトの最高刑が追放ですのでキムラスカで処罰を受けると良いでしょう。あぁ、ティアや導師様がキムラスカ王並びにファブレ公爵様の前で貴方の事を本物の兄ではないと証言してくれました。」

これでお前は名実共に偽者です、と微笑んだ。

「ユリアの血を絞り取って差し上げましょう。頑張って種馬になって下さいな。」

役に立たなかったら廃棄されるだけですけどね。




屈辱に歪む髭の表情(かお)ほど面白いものは無かったわ。

他人のレプリカを作っておいて、まさか自分のレプリカが作られてないと思っているのかしら?

ふふ、再教育したレプリカヴァンは貴方以上に優秀で従順な駒になってくれたわ。

今頃はダアトで頑張ってイオン達と一緒に色々としてくれてるでしょう。

ふふふ、その魔女の血に敬意を表して生かしてあげるの。




ヘカテー(黄泉へ導く女)は高らかに世界を嘲笑う。


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bkm
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