-SEID ヒメカ-
私がこの世界に来て、世界は良い方向に変わってきたわ。
きっと私が頑張ったお陰ね。
そうそう、原作にはなかったギルドから私の護衛を頼んだの。
きっと私の為にローレライが手回ししてくれたのね。
「ヒメカ様、シェザンヌ様がお呼びです。」
恭しく頭を下げるマリアという女は、平凡な顔に似合わず優秀なの。
ダアトの教団員でもあるし、もっと彼女と仲良くならなくちゃ!
だってイオン達も救ってあげないと駄目でしょ?
それが聖女の役目なんだから!
「分かったわ。下がって良いわよ。」
マリアを大切にしているように私は彼女に聖女の微笑みも忘れない。
アッシュもシンクもイオンも助けてあげなくちゃ!
マリアって女もダアトの人間なんだから聖女の私に尽くすのが当たり前なのよ。
だからもっと私に心酔しなさい!
彼女ははにかんだ頬笑みを残して部屋を辞した。
私はシェザンヌ様の部屋へと向かう。
途中でメイド達が私に頭を下げる。
そう、これが私!
慈悲深い笑みを浮かべて通り過ぎる。
前の世界では傅かれるなんて事は無かったわ。
あんな愚かな世界なんて滅んでしまえば良いのよ。
私はローレライの力で世界を救ってあげるの。
「シェザンヌ様、ヒメカです。」
ベットから身体を起こして私を待っている彼女に聖女の微笑みを浮かべた。
-SEID 魔女の嘲笑-
彼女は本当に何も理解していなかったわ。
こんな子に存在を奪われたなんて赦せない!
この屋敷の者達が貴女の事を聖女だと本当に信じていると思っているのかしら?
無知な貴女。
貴族の理を知らない貴女。
常識を知ろうとしない貴女。
努力をしない貴女。
ダアトの教団員を差し引いても貴族然とした立ち振る舞いをする私と庶民のような立ち振る舞いしか出来ない貴女に屋敷の者達がどんな噂をしているのかご存知かしら?
「マリアさん、大丈夫でした?」
メイドの一人が心配そうに私に声を掛ける。
何でも彼女はあの子の不興を買って降格させられたという。
幸いにもこの屋敷にいるご子息が取り成したお陰で公爵家で働けているのだが…
「サリーさん、心配しないで下さい。」
ニッコリと彼女に微笑んだ。
「聖女様の護衛をする事が私の役目ですので。」
我儘で傲慢で世間知らずな聖女様に文句一つ零さずに仕事をこなす優秀な人間だと思われているだろう。
さり気なく彼女の荷物を持てば
「マリアさん、あ、有難う御座います。」
顔を真っ赤にして御礼を言われた。
ふふ、好感度は大切だと思うのよ?
「気にしなくても良いのよ?私は貴女と同じくして雇われているのだから頼って欲しいわ。」
優しく、優しく、甘く微笑む。
私は着実に公爵家に仕えている者達との距離を縮めていっているわ。
武術・礼儀・作法・学のどれをとってもこの世界では上級貴族並みですもの。
彼等が私を何て噂しているかアノ子は知っているのかしら?
どこかの王族に連なる貴族の娘だそうよ?
笑ってしまうわね。
貴女が施しを与える彼等から貴女の出自が疑われているのよ。
だってそうでしょう?
無教養の人間が聖女だなんて笑い話じゃない!
ねぇ、聖女様。
貴女が私を利用してダアトと繋がりを持ちたい気持ちなんてバレバレなの。
偽善がどこまで彼等の心を動かすのかしら、ね?
ねぇ、聖女様。
貴女が認めていない民を私が貰っても良いわよね。
だって貴女の世界の民は一握りの人間だけなんでしょう?
魔女は着実に数の暴力を起こそうと動き始めた。