呆れたの一言かしら?
私を奪った貴女は、自分を忘れてしまったのね。
ファブレ公爵に請われて貴女の護衛を引き受けたけれど…。
年を重ねたとしても面影ぐらいはあるでしょうに、それも解らないなんて馬鹿なのね。
「お初お目に掛かります。ギルド・ケムダーの代表代理のマリアと申します。」
キムラスカ流の臣下の礼をした。
ほう、と歓心するような視線に私は敢えて無視をする。
「面を上げよ。」
グリムゾンの許可に顔を上げた。
「私は代表者であるカンタビレ殿に依頼をしたのだが、どういう事だろうか?」
暗にキムラスカを侮っているのかと問う公爵に私は余所行きの笑みを浮かべ
「恐れながら申し上げます。私もカンタビレ殿もダアト所属の者で御座います。また彼女は教団の師団長です。現在はギルドの育成で現地を離れられません。僭越ではありますが、私が遣されたのです。」
ダアトという免罪符を出した。
少し考えれば分かる事だろうにグリムゾンは早々に納得し、聖女と崇めているヒメカという少女に私を護衛に就けた。
予言の傀儡人形とはこのことかしらね。
私を奪ったヒメカという少女にはガッカリした。
こんな低俗な子供に自分を奪われたのかと思うと殺意が沸く。
そして彼女は昔の自分の容姿すら欠片も忘れているようだ。
どれだけ特典を貰ったのかしらね?
私に着いて来たケムダーの者達が彼女を見る眼は冷ややかの一言に尽きた。
それもそうだろう。
彼女はハッキリ言って無教養なのだから!
ローレライの力を持っていても此処は人の世なのだ。
力だけで世の中渡って行けるなんて甘い考えは、妄想の世界だけにして欲しかったわ。
「私の名前はヒメカよ。ローレライの加護を持つ者と呼ばれているわ。」
虎の威を借る狐のようね。
「護衛なんてギルドではなく白光騎士で十分だわ。ギルドって言っても成り立てだとグリムゾン様から聞いたもの。」
正規軍よりも過酷な訓練をこなしているギルドの傭兵達にとって彼女の言葉は侮辱以外何者でもなかった。
失言もいいところ…。
殺気立つ彼等を制止、私は彼女に
「我等の力を見て聖女様が我等を護衛に就けるかお決めされたら如何でしょう?」
提案をした。
「それもそうね。」
彼女はその辺にいた騎士に手合わせするからキムラスカの闘技場まで送れと命じる。
人の心の機微も分からない聖女様に私は嗤いが漏れた。
まぁ、聖女様と崇められているのだから我儘でキムラスカの優秀な騎士達が集められるのでしょうね。
その後?
勿論、闘技場で100人抜きをさせて頂いたわ。
1万を抱えるギルドなのだから強さは最低条件なのよ?
譜術やFOFの応用をすれば戦略なんていくらでも組み立てられるもの。
ねぇ、私を奪った聖女様。
御伽噺のように“めでたし、めでたし”では終わらないのよ?
貴女の我儘で集められた騎士は何を思って戦ったのかしら?
それは残酷なグリムのように…