あまりキムラスカに行きたくはないんだけどね。
ケムダーの島の建て直しが進んで早一年が経過した。
ケムダーには特産物がない為、ギルドを立ち上げキムラスカ、マルクト、ダアトの依頼を受けている。
勿論、ギルドに入るには軍学校並みの勉強と戦闘技術が必要となるのだけれども。
幸いにもカンタビレを筆頭に団員が教鞭を持つ事になった。
基本的な文字の読み書きから各国の法、礼儀作法等を一通り叩き込まれ卒業出来れば晴れてギルドの一員となれるわけだ。
ギルドの長を最初は私にと言われていたのだけれど自分自身の事で精一杯な為、カンタビレに押し付けた。
盛大に文句言われたけれどね。
部隊は様々あり
特殊任務部隊セラフィムは裏の仕事を専門とする。
第一師団ケルビム、第二師団スローネは上級貴族を相手にした専門部隊。
第三師団ドミニオンズ、第四師団デュナメイス、第五師団エクスシアイは一般的な仕事を生業とする部隊。
防衛大連隊アルヒャイ、防衛中連隊アルヒアンゲロイ、防衛小連隊アンゲロイと続く。
情報部隊アフロディテで形成されているギルドは、今では1万を超えている。
ギルドの規則は厳しく、私情での取引は一切禁じられており違反した者はケムダーを三親等まで追放される罰を受ける事になる。
ダアトから離れて本格的に始動し始めたギルドに対する依頼は多い。
決裁書を選別しながら私は一枚の依頼書に目を留めた。
「マリア様、どうかなさいましたか?」
最年少ながらもその腕前を買われてアルヒャイの副官を務める少女アザリーの問いに私は依頼書を彼女に手渡した。
「キムラスカからの依頼だよ。」
公爵家の印が押されているそれにアザリーは表情(かお)を顰めた。
「ユリア再来と謳われている聖女様の護衛の依頼ですか…」
本当に心底嫌そうなアザリーに私はクスリと笑う。
ケムダーの住人はダアトの預言から身包みを剥がされた者やキムラスカの難民、マルクトのホドの難民達が多い。
故に預言を重視しないし、嫌悪する者だって少なくは無い。
「私がこの依頼を引き受けるよ。」
ダアトに属しているが辺境の地に飛ばされてからは粗接点は皆無だものね。
それにもう一人の聖なる焔にも興味がある。
何せ彼等を守る為に彼女は私を奪ったのだからさ。
「私は反対です。マリア様が直々にする事ではないでしょう?キムラスカのファブレ公爵家に保護されているなら別に護衛なんていらないじゃないですか!!最高責任者を指名してくる辺りがケムダーに揺さ振りをかけているのは明白です。」
アザリーの言う事は尤もだった。
表の代表者はカンタビレだけれども彼女をケムダーから動かす事は出来ない。
彼女にはこの地を纏めて貰わないとダメだからね。
「キムラスカの思惑がどうであれ、これは好機だと思うのよ。預言大国と謳われていても所詮は人の子。預言を疎む貴族も多いんじゃないかしら?それを差し引いても公爵家となればギルドの名が上がるのは必至。受けてみる価値はあるわ。」
これで話は打ち切りよ、とばかりに私は書類サインをした。
アザリーはまだ何か言いたそうにしていたが私は敢えて気付かぬ振りをする。
こうして数日後、私とケルビムのメンバーの数人はキムラスカ入りを果した。