ケムダー
-SIDE マリア-



マルクトは取り込んだ。

ダアトの半分以上取り込めた。

ティアが予想以上に良い働きをしてくれることが嬉しい誤算。

もう一人の聖なる焔のレプリカルークと接触しておきたい。

聖女と持て囃されている彼女はきっとレプリカルークに何かしらの感情を持っている筈だから。

丁度、ヴァンが私をイオン達から遠ざけたい一身で身勝手に辺境の地にカンタビレと一緒に左遷してくれた事に感謝した。

まぁ、髭は散々アッシュやイオン達から怨まれる事だろうけどね。

左遷先は本当に辺境の地と称しても可笑しくなかった。

浮浪者が増え、飢えに苦しむ無きホドの民。

見捨てられた大地と称されただけあって犯罪も横行している。

私とカンタビレ率いる第六師団で、荒れた大地を立て直した。

教団からたまに抜け出してくるシンクやアリエッタ、アッシュ達の協力も得て、半年でケムダーの島は人が住めるようになる。

「マリア様、お花が咲いたんです。」

綺麗に咲いた花を差し出す少女に

「綺麗な花ね、エリー。ありがとう。」

頭を撫でて礼を述べる。

少女は嬉しそうな顔で

「お花が咲いたのはマリア様のお蔭だもん。一番に見せたかったのよ。」

幸せそうに笑った。

少女は母親に呼ばれ去って行く。

カンタビレが私と少女の遣り取りを見て

「人気者だね、マリア。」

ニヤニヤと笑った。

「そういうカンタビレもね。貴女や貴女の団員がいなかったらケムダーの島は此処まで復興しなかったもの。」

美しく咲いたイトスギの花を見て私は苦笑する。

絶望なんて私にピッタリね。

「そんな事はないさ。マリアが打ち出した政策はケムダーの島を救ったんだよ。お飾りのキムラスカの王女様でも、マルクトの皇帝でも、ユリアの再来でもないアンタが救ったんだ。何を抱えているか知らないけれどね、この島の住人はアンタに希望を見たんだ。もっと自信を持ちなよ。」

バシリと叩かれた背に私は痛いよとカンタビレを恨めしそうに見るが彼女は何処吹く風とばかりに持ち場に戻って行った。

晴れた空を見て私は思う。

私はこの島の住民を踏み台にして復讐を成すのだ。

ケムダー、それは貪欲。

私の象徴となる島。



-SIDE カンタビレ-



ここ数年で教団内は大詠師派により一掃された。

私利私欲に走る大詠師、時折ガラクタを見るような眼をする首席総長。

導師守護役、師団の再編成によりダアトは大詠師と総長の私兵と化した。

導師派である私に総長の不興を買ったらしい第五師団の副官だったマリアは神に見放された島と名高いケムダー島に左遷された。

飼い殺しにでもしたいのだろう。

団員の中には左遷された事に不満を抱き腐った者もいた。

無理も無い。

そして意外だったのは、第五師団の副官でもあり導師や他の師団長とも仲の良かった彼女が愚痴一つも零さずにケムダー島を立て直した事だった。

物資も無く、交通の手段も無い辺境の地にマリアは半年で立て直したのだ。

あばら家以下の建物と言えない住処で生活する彼等を私の部下を使って簡易居住区を作り上げた。

荒野だった大地を開拓し、麦を中心とした穀物の栽培を始め、自給自足を促した。

周囲が海で囲まれているこの島に何処からか連れてきた凄腕の船員は、本土と島を行き来する航路を築き上げる。

マリアを慕っていた彼等は総長と大詠師の眼を盗んでチョクチョクと見に来た。

その際に必ず植物の種や物資を持ってくる辺り彼女の人徳が垣間見えた気がする。

民の生活にも余裕が出てきた頃にはマリアはケムダー島の聖女とまで噂されるようになった。

本人は知らぬばかりだが。

住まう人々は明るくなった。

預言に頼らぬ生活を始めるようになった。

彼女の与える影響力は大きい。

いつしかそれがマリアを害する事が無いか私は心配になる。

あの瞳に時折見え隠れする暗い絶望が、マリアを飲み込んでしまうのではないかと…



ケムダー、それは貪欲。

世界は着実に変革の時を刻む。


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