-SEID シンク-
僕は導師になれなかった失敗作のレプリカドール。
ザッホ火山に棄てられて行く兄弟達。
恐怖も絶望も感じる事無く音素へと戻って行く彼等。
何故、僕だけが助かった。
死にたくないとしがみ付いた生は正に生き地獄。
奇しくも僕を生み出したヴァンによって利用価値があるからと僕は教団に放り込まれる事になった。
きっと利用価値が無くなれば僕は破棄される。
憎いんだ。
世界が!
オリジナルが!
唯一の成功作品として導師イオンに成り代わった七番目が!
滅びろ!
滅んでしまえ!
呪詛を吐き出しても尚、ドロドロとした黒い感情が僕を支配した。
七番目を挿げ替えて直ぐに守護役と師団は再編成される事になる。
被験者イオンを想って無くピンクの魔物使いはウザかった。
どうせ本物と偽者の区別もつかない愚かなオリジナルに僕は苛立つ。
僕が着ける仮面がこの時ばかりは役立った事が幸いだ。
アリエッタという魔物使いが師団長になり、僕も参謀長と師団長を兼任する事になった。
色々と問題を起こす被験者ルーク、提出期限ギリギリになるまで書類を提出しないアリエッタ、どれだけ研究費を強奪するつもりなのか金銭感覚が狂っている死神、仕事を放り出してバチカルに入り浸る樽と髭。
正直やってらんないよ!
と愚痴りたくなるのは仕方の無いことだ。
苛々と山積みになった書類を片して行くが一向に減る様子が無い。
叩かれたノック音に僕は御座なりに入室の許可をした。
書類の束を片手に入室した女は
「その仮面は受け狙いですか?」
と真顔で頓珍漢な事を聞いてきた。
何なんだ、この女は!
「好きで着けているわけじゃないよ!で、何のようさ?」
つっけんどんな言葉に女は
「本日から配属されましたマリアです。宜しくお願いします。」
敬礼をした。
「…聞いてないんだけど?」
本当に聞いてない!
こんな平凡そうな女が俺の部下なんて!
髭…バチカルから帰ってきたら覚えてろよ。
「私も髭…コホン、総長からシンク参謀長の補佐をするように仰せ付かりましたので、文句は総長へどうぞ。それと本日が締め切りの書類です。」
15aはあるだろう紙束に僕の表情(かお)が引き攣った。
「……何でもっと早く提出しないんだよっ!!」
書類ほ殆どが重要決裁じゃないか!
と僕が叫んでもマリアと名乗った女は何処吹く風で
「仕事を溜めてバチカルに遊びに行った豚と髭…失礼、大詠師と総長へ文句を言って下さい。決済印はこちらです。」
ダアトの総長と大詠師が持つ玉印を手渡された。
「はあああああああああああ???」
僕が叫んだのは致し方ないんだ。
有り得ないだろう!?
「因みに導師イオンは勉強中です。」
七番目に押し付けてやろうとしたのを読まれたのか釘を刺された。
勉強ってなんだよ!
と内心突っ込みを入れるが、目の前の書類はどうしても僕が処理しないといけないらしい。
「……燃やしたい…」
うっかり漏れた本音に
「お気持ちは同感ですが、灰にしたら始末書が追加されます。ヒキガエルとゲイ…コホン、、豚と髭は公務扱いは出来ませんので給料から天引きしておきました。」
チラリと見せられた彼等の給与明細。
新米兵士以下の給料に絶句。
「明日、検診がありますので逃げ出さないで下さいね。」
テキパキと書類を渡し、用件だけ告げてさっさと退場したマリアを僕はただ見てるだけだった。
因みに樽は横領・詐欺・秘予言漏洩、髭については公爵子息誘拐・強制わいせつ罪・惑星滅亡計画に関する罪状が記載されている。
計画全部漏れてるよ、ヴァン!
何勝手に秘予言をゲロってんだよ、豚!
何で僕がこんなに苦労しなくちゃならないんだ!
理不尽だと握り潰した書類は即行ダアトで内々に査問され影が付けられることとなる。
出来損ないのレプリカドールにダアトを任せる奴等は出来損ないの被験者だ!
狂気を孕んだ女は次々と箱庭(世界)に波紋を創る。