年を重ね、私は軍学校を卒業し第二師団に配属された。
ディストが師団長な為、他の師団とは毛色が違う。
研究がメインといえる師団で、私はレプリカ作製に携わった。
「死者を蘇らせるのなら魂の複写が必要ね。」
ネビルムさんを蘇らせるなら必須項目だもの。
死者蘇生は誰もが憧れる業(わざ)。
積み重ねられた書類に目を通しつつディストの夢を壊す。
だって無理矢理引き抜かれたんですもの。
それぐらいの意趣返しをしても良いでしょう?
「マリアっ!!」
真っ青な顔で悲鳴のように私の名前を呼んでも私は望んだ答えを出さないの。
「どうかした?」
心底解らないといった風に聞く私は本当に意地が悪い。
「私は、本物のネビルム先生をっ!」
生き返らせる、と言葉が続く前に
「記憶を植えつけても感情までは模写出来ないわ。本物を作るなら魂も模写しないと完璧ではないと思わない?」
だって感じる心は魂なのだから、と告げれば彼は押し黙った。
書類にサインをし、私は手早く机周りを片付ける。
「ねぇ、ディスト。彼女を蘇らせたい貴方の気持ちが少しだけ解るの。私もその術があれば実行するから…でもね、器だけそっくり同じで中身が違えば別人よ。」
絶望に歪むディストの顔に私は小さく嗤った。
「本物の定義って何かしら?」
投じられた疑問は彼の中でどうなるのかしら?
偽者の定義は何なのかしら、ね?
私は悩むディストを置いて研究室を後にした。
「君は意地が悪いね。」
導師イオンの言葉に私は笑う。
「今更指摘するんだ。後戻りの分岐点なんてとっくに過ぎているのにさ。」
用意された菓子を摘みながら
「ねぇ、マリア。君は何が目的なの?」
嘘は赦さないとばかりに睨み付ける導師イオン。
「自分を取り戻す為、かしら?」
レプリカと被験者、彼女と私の関係はとてもよく似ているの。
偽者と本物、奪う者と奪われる者。
私の答えに怪訝そうな顔をする導師イオン。
「彼女の死をだれよりも理解しているのは彼だもの。」
倖(ゆめ)から醒めてしまえば良い。
「私は誰にも優しくないわ。周囲が誤解するだけで、取り戻せないなら壊してしまえば良いと思わない?」
私を取り戻せないなら壊れて消してしまえば良い。
暴論とも謂える私の考えにイオンは表情(いろ)を失った。
「やっぱり僕は君が嫌いだよ。」
嫌悪と侮蔑をぶつける導師イオンに私は嗤う。
だって、貴方の中には私が存在するのだから。
愛と憎しみは紙一重って本当なのね。
私は人に預言に未来に絶望しながら、何だかんだと人に甘い君が気に入っていたんだよ。
現に君はディストの亡命を留学として手を回してくれた事には感謝しているのよ。
あのお茶会から数ヶ月が経ち、導師イオンが死にレプリカイオンが導師に成り代わった。
それでも世界は変わりなく廻り続ける。
理を曲げて生み出された彼等は、どう思うのかしら?
赤きティンクトゥラ(理を曲げる魔女)