-SIDE 閻魔-
山田エイコと名乗る人物が黄泉の門を潜ったあの日、私は今でも悪夢に見る。
他人の人生を乗っ取った彼女は何処までも図太かった。
乗っ取った人物の名前は理解していても自分の名前すら忘却して現世で好き勝手した罪として地獄へ送れば、次の日から苦情が山程届く始末。
しかも等の本人はケロっとした顔で観光気分で地獄を見学し、仕事に忠実な鬼を冷やかし、喧嘩して下僕を増やしていった。
散々本人を呼び出して此の侭、改心する事もなければ永遠に地獄に居る事になると説明したら諸手を挙げて喜ばれた。
退屈しない忠実な下僕共がいる地獄から出て行く気は更々無いと断言された時、補佐をしている鬼達が白目を向いて倒れた事は前代未聞だった。
適当な理由を付けて転生させようと画策すれば、何故か他の人間が転生する手続きになっていたりと泡を食ったものだ。
そして今、厄介事を背負った異世界の自称神と名乗る存在は、自分の世界を救ってくれる者を探しているという。
他の世界でも何人か協力者を募ったらしいが、悉く彼の世界は崩壊していったと言う。
また協力者も悉く精神を崩壊し魂さえも消えたそうだ。
ぶっちゃけ崩壊しているんだったらそのままで良くないか?
協力者に関してもそれだけの覚悟があったのだし良いのでは?
と思ったのも事実だが、体良くこの自称神に山田エイコを引き取って貰おうと考えた。
「山田エイコをローレライの世界へ連れて行くが良かろう。」
そして二度と戻って来ないで欲しい。
等と思っても口には出さないでローレライに協力を申し出た。
無論、当人の許可など取っていない。
きっと勝手に連れて行かれたら怒り狂うだろうが、その矛先は目の前にいるローレライに向けられるならば安心だ。
これで私の平穏が戻って来るとなれば黒龍で一杯するもの良いだろう。
-SIDE ローレライ-
今まで様々な人間にオールドラントを救って欲しいと願い出た。
大抵の者達は快い返事でオールドラントへ向かってくれたのだが、目の前にいる少女は
「崩壊している世界を救えって無理よ。だって崩壊しているんだもの。」
バッサリと切り捨てる。
挙句
「閻魔の奴、私を追い出すなんて良い根性しているわ。折角楽しく過ごしていたというのに……呪うわよ。」
ブツブツと呟かれる不穏な言葉の数々に我は選択を誤ったかも?
と思ってしまった。
返品しようにも絶対に閻魔?という者は目の前の少女を受け入れるとは思わないし、目の前の少女は多少未練があっても次の世界へ連れて行けば何とかなるかもしれない。
が、そんな考えは甘かった。
正直に言おう。
確かに山田エイコの精神は図太かった。
何度オールドラントが崩落して行こうと他人事なのだ。
心を痛めて涙する所すら見た事がない。
平然と我の力を行使し、我が疲弊していても労いの言葉一つもないエイコは正しく鬼だった。
「さぁ、ローレライ!アンタの出番よ。」
ビシっと後ろを指差し逆行しろと命じるエイコに対し、我は何度目かの逆行で逆らう事を辞め渋々従う道を選んだ。
だって怖かったのだぞ?
逆らわなくても怖いのに逆らったら我の存在自体消そうとするのだから!
当初の目的って何だっけ??
そんな想いを旨に秘めつつ我は何度目かの逆行を開始する。
prev next
bkm