-SIDE 幸村-
奈津子が中心となって和気藹々と楽しくテニスに励む青学を余所にコイツ等は進歩が無いというか…楠木に八つ当たりをしている。
奈津子のサポートに慣れきってしまっている為、満足にサポートのさの字も出来ない楠木では苛々が募るのだろう。
だが、アイツ等は理解しているのだろうか?
最初に手を離したのは俺達である事を…
奈津子ではなく、楠木を選んだという事実は変わらない事に気付いてないのだとしたら、夏のオーダー変更も視野に入れなければならない。
元々、奈津子がマネを請け負わなかったら俺達のみで賄って行くのが道理だったのだから…
「真田、アイツ等は気付くと思うかい?」
楠木で苛々を発散している馬鹿共を視線で促せば
「現実が見えなければ切り捨てるだけだ。常勝立海に死角を作りかねんからな。」
キッパリと切り捨てる発言をした。
少し意外だなと思うと同時に立海の常勝を常に念頭に置ける奴だったなと思い出す。
「立海に戻ったらレギュラー戦か…」
今のアイツ等がレギュラーの座に居続けられるとは思えない。
「何にせよ、これからは奈津子が敵に回るんだ。以前以上に強くならないとね。」
青学が羨ましいと思うけれど、それでも俺は目の前の現実と向き合っていかなければならない。
立海を全国三連勝させる為にも…
-SIDE 奈津子-
未練なんて何もないんだけどね。
あんだけ滅茶苦茶になってアイツ等は大丈夫なのかな?
と少しは思うわけさ。
まぁ、三年間もおさんどんをしていたんだから愛着もあるしね。
幸村もあれでアイツ等の事で悩んでるんじゃないかなーって思うんだよね。
闘病生活もあったしさ。
私は女の子らしいとは言えないメタリックボディの携帯を手に取って電話を掛けた。
数コール後に
《もしもし、奈津子?》
割と元気そうな幸村の声に安堵した。
「幸村、もしかして私って心配損だったりする?」
《そうでもないよ。こっちは下克上が激しいからアイツ等は準レギュラーに落ちたよ。》
呆気羅漢とした風に報告をする幸村の内心は計り知れなかった。
仲間を大事にする奴だったから今回の事は結構心に負担となってないだろうか?
「そっか、幸村…無理しちゃダメだよ。たまにはデートでもしよーよ?」
軽い口調でデートという名の息抜きを提案する。
行く場所は様々で、私の趣味に走るコミケだったり、幸村が好きな植物園だったり、その時に流行っている映画を見に行ったりと行き当たりばったりだ。
《それは楽しみだよ。じゃあ、最近出来たストテニに行こう。ラケット持って来いよ。》
と何処までもテニス馬鹿を披露する幸村に私はしゃーないと苦笑いして
「分かった。次の休みの日に××駅に10時に待ち合わせね。」
久しぶりのテニスの約束に胸を躍らせる。
きっと立海ではレギュラー争いは戦国期突入している頃だろう。
根性のある奴なら這い上がってくるさ。
そう思って私は幸村とデートの約束を取り付けた携帯を切ってクローゼットに眠ったままのラケットを取り出した。
思い出は思い出さ。
私は青学で新しい思い出を作っていく。
幸村がいればアイツ等も大丈夫だろう…
多分、ギリギリ?
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