その手は宙に彷徨って


-SIDE 奈津子-


ミクスドの合同合宿と聞いて最初に思い浮かんだのが彼等だった。

要らぬ揉め事を起さなければ良いが、マネの数が少ない為に強制参加だと聞かされた時、私は部長であるアキに

「立海の奴等と一悶着あるかもしれないから。」

とだけ伝えておいた。

彼女には私が立海での男テニのマネを辞めた経緯を話してある。

しかし問題は私の考える斜め上に行っていた。

ハイエナ後輩の演技に磨きが掛かって腑抜けになっている彼等が私にイチャモンを付けるぐらいに思っていたのだ。

しかし実際にはハイエナ後輩こと楠木さちは小汚…憫然たる姿を曝している。

何があった立海大??

「ほら、早く奈津子に謝れよ。」

赤也がドンっと楠木さちを突き飛ばした。

え?

扱いが違くね?

そんな私の心境などスルーな奴等に内心苛付きつつもドテっと見事に倒れた彼女を見る。

手を差し伸べてやるとかの優しさなんて私にはない。

ハイエナ後輩は何をトチ狂ったのか、私の顔を見て怯え出し、半狂乱になって土下座した。

え?

何この展開!!

「ごめんなさい!ごめんなさい!奈津子先輩が全部仕事をしてたのに私が仕事をしたって嘘付きました!私に丁寧に仕事を教えてくれたのに虐めたって嘘吐きました!」

段々と色々と暴露してくれる彼女に私は天を仰いだ。

あぁ、空が青い。

「すみません!私、マネを辞めるんで奈津子先輩、戻って来て下さい!」

必死に言い募る楠木さちの不穏な言葉に私は彼女に土下座させている彼等を見た。

あぁ、コイツ等に言わされているのか。

フツフツと湧き上がるのは純粋な怒りだ。

「絶対に許さないね。」

その言葉を聞いて半狂乱に泣き喚き出した楠木さちを責め出す彼等に私は溜息を吐きたくなった。

許さない者達の中にどうして自分が入っていると思わないのだろうか?

「奈津子、立海に戻って来てくれよ。」

ヘラっと媚を売るように笑う丸井に便乗する赤也。

「そーそ、やっぱりマネは奈津子先輩じゃないと!」

「きちんとコイツにはお灸を据えたしの。」

グッチャグッチャと自分の事を棚上げして要求ばかり突き付けてくる奴等は、自分達がどのような目で見られているのか理解しているのだろうか?

幸村と真田は傍観に徹している。

そして私が口にする言葉ぐらい彼等は察している事だろう。

「無理、無駄、無意味。ていうか絶対にお断りだわ。」

キッパリ、スッパリお断りすれば非難してくる彼等に

「第一、気付いてないかもしれないけどアンタ達からの謝罪がない。第二、親の都合で転校しているのに此処から立海に通うなんて無理。第三、此処で私の居場所があるのに捨てるほど馬鹿じゃないのよ。」

私は楠木さちを無理矢理立たせ、彼等の方へ行くように促した。

嫌々と頭を振り駄々を捏ねる彼女に

「私を嵌めて追い出してでも居座りたいと思った居場所でしょ。追い出した相手の助けなんてあると思うなよ。」

サックリと切り捨てる。

聖人君子でもないんだから手を差し伸べて貰えるってどんだけ夢見てるんだコイツ。

私は幸村と真田に

「部員とマネの管理ぐらいしてよね。行き成りコートで土下座って有得ないでしょ。次に問題を起したらお引取り願うから。」

太っい釘を刺しておいた。

彼等も心得たとばかりに御馬鹿さん達を引き摺って行く。

何やら揉めているような気もしなくもないが、もう私には関係ない事なので放置する事にした。




-SIDE 手塚-



ミスクドで合同練習があると聞いた時に幸村から騒がせるかもしれないと報告を受けていた。

アレを騒がせるの一言で済ませる幸村の神経が図太いのか、それとも立海レギュラーの彼等の常識が欠落しているのか俺は理解に苦しむ。

「見苦しいってこの事を言うんだね。」

田所と彼等の遣り取りを見ていてポツリと零す不二の視線の先は王者と呼ばれた立海のレギュラー陣とマネらしき女子に注がれていた。

「どちらにせよ、田所が彼等の手を取るとは到底思えんがな。」

やるからには妥協しない主義の田所だが、一旦手を離してしまえば管轄外とばかりに無関心になる。

「おーい、手塚に不二!コートに戻って来ーい!」

タオルをブンブンと振り回している田所を見て

「手放して惜しくなったから取り戻したいって甘い考えだよね。もうあげないけど、さ。」

幸村を見ながら不二が不敵に笑う。

「全くだ。」

今回ばかりは不二の意見に賛成だった。

いつか戻って来てくれるなんて幻想は粉々に砕け散った事だろう。

田所を傷つけるつもりなら容赦はしない。

惜しいと伸ばした彼等の手は彼女には受け入れて貰えなかった。

ただ、それだけが事実なんだろう。





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