復讐は蜜よりも甘く

-SIDE ピオニー-


外殻大地降下を成し遂げた後に本来であればキムラスカとマルクトの和平が成り立つ筈だった。

しかし和平決裂したまま半年が経過した。

キムラスカとは緊張状態が続いている。

また、マルクト領内でもホド崩落の真相、和平決裂の原因になったガイの行動、導師誘拐し和平強要しルークを侮辱し危険に曝し続けたジェイドに対し連日デモが行われている。

その内、暴動が起きるのではないか、と危惧されているぐらいにマルクトは危うい。

「俺はジェイドを買被り過ぎたんだな……」

ポツリと呟かれた言葉に幼馴染であるサフィールが

「そうですね。公私の区別も出来ないジェイドを甘やかし野放しにした貴方の責任ですよ。」

バッサリと切り捨てた。

サフィールの中にはジェイドを妄信する時期は当に終わっていたのだ。

終わってから見えてくる真実は、とても残酷で醜悪で醜い男がジェイドだった。

「私はキムラスカから使者として貴方に会いに来ているのですけどね…貴方のその態度が、キムラスカの逆鱗に触れた事に好い加減気付きなさい。」

そう忠告するサフィールに俺はマジマジとサフィールを凝視した。

昔の彼は俺やジェイドの後ろを連いて回る子供だった筈。

「少し昔話をしましょうか…」

そう語り出すサフィール。

「本当は先生のレプリカなどどうでも良かったんです。友達との約束が大事だったんですよ。だから私はジェイドに協力しました。多くの民の命を奪取し、ホドを崩落させる原因ともなった忌むべき技術でしょう。しかし医学は第七音素に縋り付いて進歩もしていない。私がしたかったのは臓器のレプリカ移植手術です。約束と夢の狭間で私は苦しみました。人を救う為の技術にしたかったのに人殺しの技術として扱われる。そしてホドが崩落し、ジェイドは私にこう言いました。お前が全部勝手にした事だ、とね。」

サフィールの苦々しい声音にどれ程の思いが篭められているのだろう。

ジェイドの言葉を信じ、妄信し、結果としてマルクトは終わる。

「貴方達は勘違いしているようですが、軍事機密を持ち出したのは私ではありません。ホド出身の研究者がいたでしょう?」

そう言われて思い至った。

そうだ。

ジェイドよりもサフィールを敬っていたホド出身の研究者が一人いた。

「ライナーか…」

サフィールが嬉々として自慢していたのを聞いていたので覚えている。

「えぇ、彼が持ち出したんです。そして彼はダアトへ亡命しました。しかしレプリカ製造の音機械を作る事は出来なかったのでしょう。私はネフリーを人質に取られ拉致されたのですよ。彼女が結婚した相手こそ教団員の暗部だったのですからね。まぁ、私が師団長になり暗殺させて頂きましたが、ジェイドも貴方も知ろうとしなかったんですね。少しでも私の事を調べれば判った事でしょうに…」

呆れたような表情(かお)でサフィールは

「ガルディオスとジェイドの身柄を引き渡して下さい。瘴気中和とローレライの解放はキムラスカが行います。どうせジェイドにレプリカを使って瘴気中和をするべきだとでも言われているのでしょうからね。」

完全にマルクトを俺達を見限った。


あの頃に戻りたいと願ったのは果たして誰なのか?



-SIDE イオン-


外殻大地降下を成し遂げた後に本来であればキムラスカとマルクトの和平が成り立つ筈だった。
しかし和平決裂したまま半年が経過した。

ダアトの各地で信者が襲われるという事件が多発している。

師団長だったシンク、ディスト、アリエッタ、ラルゴはアクゼリュス崩落以前に辞表を出しており、兵士達を纏める者達がいなくなった。

一部はヴァン・グランツと供に離反し、またファブレ子息殺害未遂にタルタロス襲撃犯である鮮血のアッシュはキムラスカ預かりとなっている。

共に行動していたアニスはスパイ容疑でマルクトに身柄を引き渡した。

また、ティアに関してはユリアの血族ということもあり減軽を嘆願しようとしたが、詠師達によって止められる。

「…どうしてこんな事に……」

日に日にダアトの街並みが荒んで行くのが感じ取れた。

信者達が暴動を起すのも時間の問題かもしれないと思う。

僕の呟きに傍に控えていたトリトハイムが

「解りませんか、導師。」

凍て付いた眼で声で僕を責める。

「キムラスカよりダアトの献金が0になりました。詠師会より了承の意をキムラスカに返しておきました。」

ダアトは滅びますね、と天気予報を告げるように淡々と報告するトリトハイムに

「何故!?そのような非道が!?それを僕の了承もなく許したのですか?」

例え身代わりといえど導師である僕に一言もなく決められるなんて、やはり僕がレプリカだからなのだろうか?

非難の混じった声で詰め寄れば彼は

「貴方の我侭で身勝手な行動と甘さがダアトを滅ぼしたのですよ。和平の為だと公務でもないのにダアトより出奔されましたね。そしてマルクト領で頼まれてもしないエンゲーブの盗難事件に首を突っ込み、ルーク様をライガクイーンと戦わせた。しかも誘拐犯であるティア・グランツを庇い、スパイのアニス・タトリンを重用し、数々の不敬と侮辱を笑顔で聞き流していたそうではないですか!カインツール襲撃事件も殺される可能性が高いルーク様を敵地に無理矢理連れて行った貴方がキムラスカの怒りを買ったのですよ。」

嫌悪と憎悪の入り混じった眼で僕を見た。

「2年前の貴方は何処にいったのでしょう?政務者として、ダアトの指導者として、私達が仕えるべき主として素晴らしかったのに…変わってしまわれた。」

落胆と怨嗟の言葉が突き刺さる。

「ダアト最高機密であるセフィロトの門を開き、世界の危機を招いたのです。アクゼリュス崩落の一旦はダアトに導師イオン、貴方にありました。なのに彼等はルーク様だけを責立て罪人に仕立て上げた。彼等こそが罪人であるというのに!そのような仕打ちを受けてダアトの民を虐殺されなかっただけキムラスカの温情だと言えるでしょう。」

トリトハイムの言葉に僕はカタカタと恐怖に体を震えさせた。

あぁ、何て愚かなのだろう…

良かれと思って行動した事全てがダアトの禍となって跳ね返ってきた。

差し伸べる手は、選んではならない者に向けられ、差し伸べなければならない手を僕は無視したのだ。


ポロポロと涙を流す導師イオンに傍に控えていた者達は誰も同情などしなかった。

彼はダアトを滅ぼした者の一人なのだから!








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