嘲笑う暁の王女

「憲兵、我が王に剣を向ける痴れ者を捕らえなさい。」

凛とした声が和平協定の場に響き渡った。

美しい暁の髪とエメラルドグリーンの瞳はキムラスカ王族の証。

憲兵は即座に痴れ者と呼ばれた仲間の一人を拘束した。

「何をするの!酷いわ!!ガイを放しなさい!」

高圧的に命令を下すダアトの軍服を纏った大罪人に暁の髪を持つ少女は

「お黙りなさい。」

ピシャリと言い捨てた。

「お父様、怪我は御座いませぬか?」

少女はインゴベルト王の無事を確認すると、隣で暗器を仕込ませてガイを返り討ちにするつもりだった“ナタリア”に

「メリルもよくお父様を守って下さいました。礼を申します。」

大輪の花のような笑みを浮かべる。

“ナタリア”は席を立ち恭しく膝を突いた。

「礼には及びません、ナタリア様。」

ルークの仲間と称した者達やダアト、マルクト側は驚きを示す。

“ナタリア”にナタリアと呼ばれた少女は綺麗な微笑みで

「初めまして、ピオニー陛下並びに導師イオン。私の名前はキムラスカ・ランバルディア王国王女ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアです。」

狂気を隠しながら自己紹介した。

「やれやれ、キムラスカは和平を望んでないのですか?」

馬鹿にしたようなマルクトの死霊使いの言葉を皮切りに

「サイッテー!私達を騙してたってことぉ?」

「本当ね!これだから貴族は傲慢なのよ。」

口々に罵り始める。

ピオニーやマルクト、ダアトの高官達は思った。

何だコレは?

異常な光景に眩暈がする。

例えキムラスカが何かの思惑を持ってナタリア姫の影武者を和平協定の場に入れ替わっていた事に対し、ただの左官が、下っ端の軍人が、キムラスカ王に剣を向けた貴族が、王の許し無く口を開くなんて有得ないのだ。

キムラスカに問う権利を持つのは和平を申し込むピオニーと仲介するダアトのイオンのみ。

「外野はお黙りなさい、と言って聞く人間ではありませんでしたわね。メリル、ジョゼット彼等を黙らせなさい。」

少女の命にかつて“ナタリア”と呼ばれていた少女メリルとジョゼット・セシル少将が彼等を手際良く押さえ付けた。

「な、ナタリア、俺はっ!」

アッシュの訴えを汚らわしいとばかりにメリルは

「わたくしはメリル・リ・オークランド。ナタリア殿下ではありませんわ。鮮血のアッシュ。その煩わしい口を閉じてなさいな。」

淡々と切り捨てる。

「嘘だ!嘘だ!お前は俺を騙していたのかー!!?」

怒り狂い拘束からもがき出すアッシュにメリルはニッコリと

「人聞きの悪い事を言わないで下さいまし。わたくしは王命で騙す事が仕事でしてよ。髪の色で王族ではないと判るでしょうに気付かない愚者。王族が死を恐れてキムラスカから亡命した反逆者が何を今更。確かに貴方はキムラスカ王族の特徴を持ってましたわ。でもそれだけの価値。アクゼリュスで失っても痛くもありませんのよ。なのにダアトで六神将になってルーク様のお命を狙い続け、身代わりにするなど赦せるものではありませんわね。死んで下さいまし。」

彼が抱いた“優しい陽だまりのナタリア”を打ち砕いた。

その一方でナタリアと呼ばれた少女が

「お父様、マルクトは和平を望んではおりませんわ。」

開戦を促す。

これに慌てたのはマルクトとダアトだ。

「待ってくれ。我が国は本当に心より和平を願っている。何故そのような事を?」

「そうです。私はキムラスカとマルクトの和平を担うために此処にいるのです。どうして争いなど!」

ピオニーとイオンの言葉に彼女は嘲笑(わら)って

「何を仰いますの。今、マルクトの貴族であるガルディオス伯爵が我がキムラスカ王に刃を向けたではありませんか!事実上の宣戦布告ですわね。そして我がキムラスカに多大な迷惑を被ったダアトの仲介とは片腹痛いですわ。」

それで和平を結べるとでも?

と告げた。

「ファブレ公爵家に復讐目的で潜入し、世界の存続の敵であるヴァン・グランツの共犯者のガイラルディア・ガラン・ガルディオス。公爵家を襲撃、我が婚約者を誘拐し戦闘強要、殺人強要、殺人未遂、傷害罪、不敬罪、侮辱罪…上げたら限がないティア・グランツ。あぁ、ヴァンの計画を知っていた隠蔽罪もありますわね。娼婦のようにルークに擦り寄り、挙句に不敬と侮辱の限りを尽くしたアニス・タトリン。モースのスパイですものね、そう命じられたのかしら?そして和平を申し込む側でありながら被害者であるルークを捕縛・脅迫・戦闘強要・殺人未遂・不敬罪・侮辱罪で罪状が沢山あるジェイド・カーティス大佐。ローテルロー橋を破壊して下さったお陰でキムラスカの物価が上がったのですわよ。」

次々と告げられる真実にマルクト・ダアト側は真っ青を通り越して真っ白になっていく。

「先のホド戦争の事もありますし、和平は今は白紙になさって下さいませ。今直ぐ戦争というわけではありませんわ。オールドラントに住まう民はホド戦争の真実を知り、ルークが受けた仕打ちを知ってしまっております。そしてガルディオス伯爵の暴挙はオールドラント中に知れ渡る事になりますわ。これで和平を結べという方が難しいのではありませんか?」

少女の言葉にインゴベルトが頷き

「ナタリアの言う通りじゃな。マルクトの若き王よ、和平の意思が誠意がわしには見えぬ。故に今回の和平は白紙にさせて貰おう。何、今直ぐ戦争を起そうというわけではない。マルクトが誠意を見せれば良い話だ。違うか?」

和平の決裂の意を告げた。



ナタリアと呼ばれた少女は満足そうに嘲笑(ほほ)えみ、これから消えるダアトと吸収されるマルクトの運命(未来)に思いを馳せる。

これで一つルークの枷が一つ解き放たれた。







prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -