世界で哀を叫ぶお姫様

「ねぇ、貴女!」

私が声を掛ければ、声を掛けられたモブは嫌そうな顔をしてソソクサと足早に去っていく。

「ちょっと待ってよ!」

他にいるモブにも声を掛けても一斉に眼を反らされた。

そしてコソコソと悪意の篭った噂話に

「言いたい事があるなら言いなさいよ!」

と怒鳴る。

だって我慢出来なかったんだもん。

元のいた世界と同じように私を蔑む奴等と一緒。

私は素晴らしい存在なの!

特別なの!

モブ如きが私に楯突くなんて許される事じゃないんだから!

モブの一人が

「嘘吐き」

ポツリと呟いた。

「何がよ!私の何処が嘘吐きなのよ!?」

私の言葉を皮切りにモブが口々に
「全部に決まってるじゃない。アンタの何処が虐められてるわけ?」

「そうそう、大体その傷だって自分で付けたんじゃないの?」

「あははは、ドMで悲劇のヒロイン気取りって痛い奴ね。」

「凄っく、アンタ迷惑。」

私を嗤う。

何なのよ!!

コイツ等も学校にいれなくしてやるんだからっ!!

そう思った時

《3年C組、姫宮かな、有住河ありす、至急校長室へ来なさい》

校長室に呼び出しされた。

きっと有住河を退学にするんだわ。

全く遅いわよ!

ついでに私に楯突いたモブも消してやるんだから!





校長室に行けば有住河と校長、そして見知らぬ男性が二人いた。

一人はスーツにもう一人は白衣を着ている。

どちらも職員には見えないけど関係者か何かかしら?

「校長先生、私は有住河さんに謂われない暴力を振るわれてるんです!早く助けて下さい!!」

そう訴えると有住河はこれ見よがしに溜息を吐いた。

その余裕がいつまで続くと思わないでよね。

私は前以て傷つけておいた傷を見せ同情を誘う。

「ほら!見て下さい!有住河さんに付けられた傷なんです。こんな事が許されるんですか??」

「有住河さん、彼女の言葉は本当なのかね?」

校長の言葉に有住河は

「いいえ、彼女の妄想です。私の利き手は左です。傷からして真逆ですし、他人が付けるにしても不自然な傷跡だと思います。」

ハッキリと否定した。

そんなの校長が信じるわけないでしょ!

此処は私の世界なんだから!

なのに

「ふむ、それもそうだな。どう見ても傷は自傷による物ですね。」

白衣の男が私の言葉を否定した。

何なの?

何で私の思った通りに動かないのよ!!

「私が嘘を吐いてるって言いたいの?私は彼女に虐められてるのよ!!早く彼女を学校から追い出して!」

コイツさえいなければ私がヒロインなんだから!

彼女を突き飛ばそうと手を伸ばせばスーツの男に手を捕まれた。

「暴力はいけませんね。」

捕まれた腕を乱暴に振り解けば呆気なく男が壁に激突する。

ふん、私に気安く触れるからよ。

私は校長の机をバンと叩き訴える。

だから気付かなかった。

スーツの男が頭から血を流している事も白衣を着た男が救急車と警察を呼んだ事も、有住河ありすや校長の顔から血の気が引いていたことも…



「何故、私が警察に捕まらなければならないのよ!!此処は私の望む世界なのよ!!」


気狂い女の叫びは虚しく空に消えた。





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