墓穴を掘るお姫様

姫宮かなが私に纏わり憑くようになって数日、私よりも周囲の人間に苛立ちが増したようだ。

特に私の幼馴染殿は彼女を殊の外毛嫌いしている。

私の部屋に入り浸り怨嗟の声で延々と聞かされる愚痴に私は溜息を吐いた。

姫宮かな曰く、私が嫉妬のあまり彼女を虐めたという。

彼女の言葉を真に受ける奴がいないというのに日々彼女は頑張っているらしい。

噂の渦中に放り込まれてから早数日とうとうその日はやってきた。

私がいつものように仁王と丸井と菓子を突きながらクラスでダベっていると包帯をグルグル巻きにしたミイラこと姫宮かなが鬼の形相で私の机をバンっと叩き

「ブン太も雅治もどうして私を虐めるような人と一緒にいるの!?私が可哀想だと思わないの??」

と怒り出す。

姫宮が机を叩いた衝撃でスナック菓子(開封済)は宙を舞い、彼女の頭上に落下した。

どんなコントだ、と笑いたいのを堪えるも隣で爆笑している仁王に釣られて私も笑う。

丸井は菓子を台無しにされてご立腹であるがこのさい無視だ。

そんな私を見て、姫宮は

「昨日も私を待ち伏せして散々暴力を振るった癖に!図星を指されたからって食べかけのお菓子を私に頭から掛けるなんて酷い!」

悲劇のヒロインを頑張って演じている。

演じるのは良いが、スナック菓子がお前の頭に掛かったのは貴様が私の机を叩いたからだ。

にしても手形が残るぐらい机を叩くってどんだけ怪力なんだろう?

エスカレートしていく姫宮に反して私の思考は姫宮の身体能力やぶっ飛びな思考力に興味が行った。

「ちょっと!何とか言いなさいよ!」

全く話を聞いてなかった事に気付いた私に姫宮が怒り心頭で私に声を掛ける。

今にも殴りそうな勢いだ。

あんな怪力で殴られたらきっと昇天するんじゃね?

まだまだノッタリと人生を謳歌したいので、私は一応適当に姫宮の言葉を聞くことにした。

「私が可愛くてモテるからって嫉妬しないで!こんな陰湿な虐めなんて止めて欲しいの!ブン太達を巻き込まないでよ!迷惑なんだから!」

あー意味不な発言に私は白目を向きそうだよ。

言語が通じないってあるんだね。

とばかりに仁王と丸井に視線を向ければ同感だと頷かれた。

頷くよりも手助けして欲しかったよ。

このまま放置すれば私に迷惑が掛かるだろう嫌な未来が待ち受けているので

「あのさ、姫宮に嫉妬する理由が全くもって見当たらないし、仁王と丸井は元々友人なんだけど。それにアンタを虐めるなんて面倒な事するわけないじゃん。いつ・どこで・誰が虐めたのさ。」

排除する事にした。

私に切り返されるとは考えて無かったのか彼女は支離滅裂(しどろもどろ)に

「そ、それは、昨日の夜、私の家の前で待ち伏せして殴りかかったじゃない!酷い!」

言い返す。

「そうなんだ。それが本当なら許せないよね。昨日の夜の何時頃?」

棒読みのクラスメイトの言葉に姫宮は仲間を得たと笑みを浮かべ

「9時ぐらいだわ!」

自信満々に応えた。

「どうして有住河だって分かったんだ?」

まぁ、普通の反応だわな。

「決まってるじゃない!街頭の明かりで彼女の顔を見たからよ!!ねぇ、皆酷いでしょ?私本当に虐められてるんだよ!!」

と嘘泣きをし出した。

そんな姫宮を一斉に冷たい視線が突き刺さっているのだが彼女は一向に気付かない。

「そうなんだ!最後にありすの服装とか分かるよね!どんなのだった?」

真っ黒な笑みで最後の質問を投げかけるクラスメイトに

「そ、そんなの夜だし、暗かったんだから分からないに決まってるじゃない!!疑ってるの?」

酷い!

と喚く姫宮かな。

その頃、私といえばある人物をメールにて召喚していたりする。

そろそろかな、と思えばガラリとクラスの戸が開いた。

「何やってんのさ、ありす。」

悠然と私に向かって歩いてくる精市に私は説明をしようとするが、その前に姫宮かなによって遮られる。

「助けて、精市!有住河さんが私を虐めるの!ほら、この傷だって有住河さんがやったんだよ!!私、彼女のこと親友だと思ってたのに!!」

親友設定まだ続いてたんだ…

と半眼で姫宮を見た。

隣から冷気を発する精市を見れば閻魔を背負っておりました。
怖っ

サタン進化する前に何とかして彼女の妄想を断ち切らないと今夜は寝かせて貰えないだろう。

「姫宮さ、好い加減に嘘吐くの止めてくんないかな。私アンタを虐める要因なんて無いし、親友でもない。それに姫宮の住んでる場所も知らないのにどうやって家の前で待ち伏せ出来るのさ?もっと言えば昨日の夜は精市達と勉強会してたんだけどね。」

お馬鹿なクラスメイト数名と精市達を交えて地獄の勉強会をしていたんだ。

アリバイを明かせば姫宮は認めたくないのか

「そんなの抜け出して来れるじゃない!見苦しい嘘なんて言わないで!」

と叫ぶ。

精市監督指導の下に行われる地獄の勉強会に抜け出せる時間なんざありはしない。

参加した馬鹿メイト達の顔色は一様に悪かった。

「じゃあ、もっと簡単な事でー私の昨日の服装を言え。私の顔が分かるぐらい街頭の明りが点いてたんだし、暗くて服まで見えなかったなんて嘘吐くなよ。」

バッチリと見えるもんなんだ。

と念を押して言えば

「な、な、何よ!アンタなんて学校に訴えてやるんだから!!」

と逃げ出してしまった。

あーあ、明日は校長室行き決定かな。

集まってくるクラスメイトを宥めながら面倒臭ぇーと私は心の中で呟いた。


きっと彼女は気付いてない最大の墓穴を掘っている事を…





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