黄昏の紋章
黄昏

それは全ての終焉。

それは全ての帳。

それは物事の終着点。




-SIDE アレニア-


ファールーシュ王子殿下を連れ、私はニルバ島を経由して群島諸国へ足を踏み入れた。

スカルド・イーガン提督。

あの世界で太陽にファレナに全てを捧げたリーシャ様が私に示した残酷な平和(世界)。

彼なくしては、リーシャ様の命で栄えたファレナを傍観(みつづ)ける事は出来なかっただろう。

この世界の彼も変わらない。

「御久し振りです、提督。」

最高礼を取り

「此方はファレナ女王国第一王子であらせられるファールーシュ殿下に御座います。ファールーシュ殿下、この方はオベル王国海軍総督スカルド・イーガン提督にあらせられます。」

双方を紹介した。

「お初お目に掛かります。スカルド・イーガン提督、私はアルシュタート・ファレナスが第一子、ファールーシュ・ファレナス。」

王族として威風堂々と自己紹介する姿は、嘗て我が主が王にと望んだだけはある。

まぁ、その自己紹介も

「そんなに畏まらなくても良いぞ、王子殿下。」

アッハッハッハ、と笑い飛ばす提督に阻まれていた。

彼の娘であり、ファールーシュ王子殿下の叔母に当たるベルナデットが頭を抱えているのは今更である。

「アレニア殿に紹介して貰ったが、スカルド・イーガンだ。そしてこっちが右腕のベルナデット。」

紹介されたベルナデットは提督の足を思いっ切り踏み躙りつつ優雅に

「初めまして、ファールーシュ王子殿下。御久し振りです、アレニア殿。」

礼を返した。

「さて、堅苦しい挨拶よりもアレニア殿が彼を此処に連れて来たということは、内乱が起きるのかな?」

ギゼル様の指示で内々に提督と連絡を取って来た。

尤も彼の子息が現ファレナ女王の夫であるから最初は門前払いではあったけれども。

「アルシュタート陛下は、自分の娘を女王に就けたいが為に次期女王であるリーシャ様を暗殺しようとされ、領地ライトピアを逆賊と汚名を着せ蹂躙されたのです。王族の血をその身に受けるサイアリーズ殿下、ハルワール祭主、此処の居られるファールーシュ王子殿下の命すら狙っておいでです。」

託された書類を提督に手渡した。

彼等が味方になれば心強い事だろう。

だがそこまでは望まない。

大き過ぎる貸しは、内乱終結後に不要な禍を招く事になるからだ。

アーメスを牽制して貰えると有り難い。

「この情報だけではリーシャ殿に力を貸す事は出来んな。」

提督の言葉は尤もだ。

「太陽は、アルシュタート陛下の手に落ちる事になるでしょう。紋章師が太陽宮に集められているのは事実です。」

あの女王が果たして太陽の紋章を制御出来るだろうか?

答えは否だ。

どうせ目の前の提督も間者をファレナに放って報告を受けている事だろう。

「アーメスを牽制すれば良いということか?」

海のように凪いだ瞳が真っ直ぐと己を見詰めた。

探る真意に

「如何様にもお取り下さい。ですが、貴国の名を改竄された英雄は我が主の下におります。」

鍛え上げた外交様の表情(かお)で乗り切る。

改竄された英雄という単語に提督は暫し考え

「ベルナデット、お前はあの方の護衛に就け。ファールーシュ王子殿下、アレニア殿、部下を宜しく頼む。なーに、少し南の海が荒れているようだ。私は鎮めに行かねばならぬ身だからな。」

彼女をファールーシュ殿下の護衛の任に就け、アーメス牽制を約した。

英雄殿に護衛は不要だろう。

私達は提督と別れファレナに、リーシャ様の下へ戻った。







-SIDE ファールーシュ-



黄昏の紋章を継承した時、紋章が視せた記憶。

繰り返し、繰り返し、同じで違う過去の記憶。

太陽の紋章に焼かれた僕の妹だったリーシャ。

ファレナを、民を、家族を愛し太陽に身を捧げた僕の妹だった彼女。

ファレナの太陽の紋章を統べる、即ち王が決まるということ。

太陽は今生の母上と妹を見限った。

でなければこの世界の僕の右手に黄昏の紋章が宿る事はない。

「ファールーシュ殿下、今なら引き返せますよ?」

心を読ませない上辺だけの笑みに

「謁見の間で決着をつけた瞬間(とき)に僕の未来(意思)はファレナの為だけにあると決めているんだ。」

それがあの時、僕がリーシャに出来る唯一つの事を目の前の男に告げた。

初めて見る彼の複雑に揺らめいた瞳に僕は苦笑する。

「ファールーシュ殿下、貴方は記憶を持っているのですか?」

その問い掛けに僕は是と答えた。

「僕が宿したのは黎明の紋章だった。そしてリーシャが太陽と黄昏を宿し、ソレを僕に継承させた。ファレナの王の証として…今度は僕が還す番だ。」

ゴドウィンの名を捨てた青年を見て笑う。

以前は敵同士、互いを殺しあった仲が今は心強い味方。

「裏切るとは思わないのですか?」

覚束ない言葉に僕は笑った。

「君もアレニアもリーシャを裏切りはしない。」

リーシャの盾となる事を決めた僕の意思と宿る紋章の力を君達は欲するだろう。

だからギゼル、君は僕を裏切る事が出来ない。

「君が裏切る時は、僕が間違った道を選んだ時だけだ。」

最愛なる母よ、敬愛する父よ、憐れな妹よ、永久(とわ)の別れを…

統べては太陽に相応しき女王の下に…



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追記

MY設定2入ります!!

黄昏の紋章は過去を司ってます。

ファールーシュ王子は仮継承者です。



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