戦いの狼煙

-SIDE ギゼル-


「王家の裏がどんな魔窟であるか知っていたというのに私は貴女を守れなかった。」

紙のように白い顔に生気ない彼女をみて私は後悔する。

ファレナ王族は何処までも私利私欲で私の至宝を蹂躙するのか!!

滅べ、と怨嗟の声を上げ、文字通りファレナを滅ぼしてやろうと思う。

「ギゼル様……」

瀕死の彼女を文字通り此処まで連れて来たアレニアの呼び掛けに我に返った。

「アレニア殿、リーシャを守ってくれたこと礼を言うよ。君が此処に彼女を連れて来なければ彼女は命を落としていた事だろう。」

感謝の意を伝えれば彼女は頭(かぶり)を振って

「いいえ、ギゼル様…私はまた守れなかったのです。リーシャ様を命の危険に晒してしまったのです。リーシャ様をお救いして下さったのはギゼル様です。」

嗚咽を洩らし、ファレナ王家に呪いの言葉を吐き続けるアレニア。

「アルシュタート陛下には玉座を降りて戴こう。」

私はクーデターを示唆した。

虚ろだったアレニアの瞳に私と同じ復讐(いろ)が宿る。

「あぁ、父上やバロウズ卿、元老院の爺共にも一緒に葬ってしまおう。」

彼女の作る世界には化石のような輩は不要なのだ。

「それは…彼等を動かすと?」

かつては幽世ノ門として人殺し集団であった彼等。

アルシュタート女王陛下とフェリド閣下によって解散されたが、殺人兵器として育てられた彼等を野に放つのは危険だと危惧して保護をしたのは、紛れも無く彼女だった。

後始末もしなかった彼等よりも人として扱う彼女を彼等が慕うのは当然の事と言える。

彼女が目を覚ました時にはアルシュタート女王が愚帝である事を示さねばならない。

「我等の至宝に手を出したのだよ。」

狂気を滲ませて嗤った。

あの頃の私とは違う。

この世界で築いた地位と権力と人脈で現在(いま)のファレナ女王家を滅ぼしてしまえば良い。

「アーメスは放っておいてもバロウズ卿が引き入れる事だろうしね。まぁ…群島諸国にはアレニア殿、君が行ってくれるかい?」

群島諸国の切り札を君は持ち出せる位置にいるのだから。

私の意図に彼女は気付き

「御意」

臣下の礼を取って退出した。

ファレナ女王家で唯一まともである彼を連れて行く事だろう。

「ドルフ」

控えていたドルフを呼び

「Rainを発動させます。邪魔と思われる人物全て抹殺(や)ってきて下さい。あぁ、ユーラム君にエリスが唄を紡いだと伝えておいておくれ。」

作戦の指示を出した。

内乱などと生温い、これは戦争だ。

まぁ、彼等にはリーシャの騎士団をゴドウィンの私兵と勘違いされるぐらいが丁度良い。

リーシャ、君が目覚めの刻(とき)には、君が王の頂を得る。

その為なら私は何でもしよう。



-SIDE アルシュタート-


ファントーム姉上の娘であるリーシャ。

当初はわらわにとっても愛しい存在だった。

彼女より少し後に生まれた息子であるファールーシュ。

ファールーシュが姫であれば、早々にリーシャの持つ王位継承権を破棄させる事が出来たのに…

リムが生まれた頃にはリーシャが次期ファレナ女王だった。

然るべき時にリーシャをファールーシュの下へ降嫁させ、王位継承権を白紙に戻し全てが円滑に終わるはずだった。

が、民や貴族がリムではなくリーシャを王と望む。

わらわの子があの娘に劣るというのですか!?

今思えば、リーシャは子供らしくない娘だった。

出自故か、はたまた天性なものかは判らぬが…

子供が子供らしく振舞って何が悪いというのだ?

リーシャとリムを比べる事の方が間違っているではないか!

チリンと硝子の鈴を鳴らしメイドを呼んだ。

「ミアキスを連れて参れ」

命を下す。

リムが産まれて、ミアキスをリム付きの女王騎士にした。

彼女の忠誠はリムにある。

リムの障害に成り得る存在を消し去ってくれる事であろう。

「アルシュタート女王陛下、女王騎士ミアキス只今参りました。」

きっちりと臣下の礼を取るミアキスにわらわは一つの小瓶を机の上に置いた。

「ミアキス、そなたに一つ頼みがあるのです。コアントローを誰の眼にも触れずにリーシャの元へ運んで貰えますね?」

隠された真意に気付いたのか

「拝命承りました。」

毒を受け取る。

「次の王は誰であろう?」

問い掛けに

「それはリムスレーア姫様ですぅ。では、長期任務に行って来まーすv」

我が娘リムスレーアの名を上げた。

ミアキス、彼女が万が一にも失敗すれば別の者を使えば良い。





「はーはーうえー」

舌っ足らずに駆けて来る私の愛おしい娘。

わらわの娘リムスレーアこそファレナの女王に相応しい。

我が子を抱き締め私は嗤った。

早く朗報(リーシャの死)を聞かせてたもれ。

愛故に狂って堕ちた王女の微笑み。



織(し)ろうとしない者に緩やかに戦いの狼煙が上がった事を知る術も無く…




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