それぞれの未来(さき)

-SIDE リーシャ-


私は転生した。

自分の体質を思えば、またかの一言に尽きる。

ファレナ女王国の王族に転生するとは思わなかった。

正直面倒臭いんだもん。

数年後にはクーデターが起きるんだろうな、と思いつつも自分に王位継承権がある事にビックリだ。

異端

異分子

異常

私の知る記憶(物語)とは違っても世界は回り続ける。

私が壊れるのが先か、世界が壊れるのが先か判断しかねた。

「リーシャ様、本当に良いのですか?」

付かず離れず私の騎士で有り続けるアレニア。

彼女もまた記憶と違っていた。

「ファールーシュ王子殿下との婚約の事なら承知の上だよ。」

本来なら闘神祭で伴侶を決めるのが通例だろう。

だが、王位継承権のない王子をファレナの国政に携わらせたいと思う彼等の気持ちは痛いほど理解出来た。

そして念願叶って彼等にリムスレーア姫が誕生したのだから、王位を脅かす私を玉座から遠ざけておきたいのだろう。

「ですが!リーシャ様のお気持ちはどうなさるのです?まるで道具ではありませんか!」

憤る彼女を諭す。

「王家は民の為の道具なのだよ。先々代の王位継承争いは惨たらしいものだったと聞く。多くの者が血を流し、涙を流し、苦渋を飲まされた。ファレナ女王家によって…」

王族って本当に面倒臭いよね、とは言えないけれど私を私として扱ってくれるアレニア達を守る為なら苦ではないよ。

「アレニア、私はファレナの王族だ。王族は民の僕であり、ファレナの道具でもある。リムスレーア殿下が王位を継承し、私は彼女の補佐になる。それが私の未来(みち)だと思うよ。」

私の言葉にアレニアがどんな表情(かお)をしているのか知る由もなかった。



いつか誰かを愛しても報われる事はない。



-SIDE ファールーシュ-


懐かしい。

初対面でそれはどうかと思うような気持ちを抱いてしまった。

とても美しい年上の女性(ひと)。

彼女はどこまでも誠実で、優しかった。

僕と彼女の婚姻はファレナ王家の内部抗争を抑制する為の物だと思う。

先々代の王位継承争いは内乱一歩手前だったと聞いた。

母上達はそれを憂いて僕とリーシャさんを結婚させたいのだ。

でも本当は妹のリムに王位を継がせたいと思っているんじゃないかな?

正直、僕はリムには王を全うするだけの器はないと思うんだ。

王族に幼いは言い訳にならない。

リーシャさんと話をして考えを改めたんだ。

「ファールーシュ、何か悩み事でもあるのかい?」

万年筆を置いて心配そうに僕を見るリーシャさんに胸が高鳴る。

「リーシャさんは、僕の婚約者になる事に抵抗を覚えないの?」

リムが産まれて僕は居場所を失くした。

女が王位を継ぐのが慣わしだから王位継承権のない僕に価値はない。

利用価値がない婚約者が嫌ではないのだろうか?

ムクムクと湧き上がる不安は

「ファールーシュ、私は君は聡明な人だと思っているよ。誰もがファレナを素晴らしい国だと褒め称える中で、君だけが判らないと答えた。この婚約は私にもファールーシュ、君にも有益だと思う。恋という気持ちはないけれども君と添い遂げるなら悪くないのかもしれない。」

柔らかな声音で僕の欲しい言葉をくれた。

「いつかリーシャさんの隣に立つのに相応しい人になってみせるよ。」

まだ幼い僕の誓い。

例え両親が敵に回っても僕はリーシャさんを選びたい。



リーシャさんが愛した向日葵。

僕の大好きな花。

リーシャさんに抱くのは愛慕なのか、光輝なのか、敬慕なのか…

いつか貴女が僕でない誰かを愛しても僕は君の隣にありたいと願う。





-SIDE ユーラム-


ギゼル君と手を組んだ時、彼が言っていた“主に足る王”は彼女の事だと理解した。

リーシャ様が手掛ける施政は確実にファレナの益になっている。

リーシャ様の人気はアルシュタート陛下を凌駕していた。

陛下も賢帝と名高いが、リーシャ様の足元にも及ばない。

時期王女の後継者もリーシャ様を望む声が高いが、陛下実子のリムスレーア姫になるかもしれなかった。

はっきり言ってリムスレーア姫に王として期待出来ない。

周囲が甘やかし過ぎたのか、彼女は自分を律する事が出来ていなかった。

王族としての意識も低いし、プライドだけが高い我侭な子供。

親の権力を嵩に何人の者達が王宮を去った事だろう。

王宮を去った者達を救い上げたのがリーシャ様だと彼女は知らないのだろう。

勿論、陛下達も知ろうとしてないのだが…

「君はどうするんだい?王子殿下とリーシャ様の婚約はリムスレーア姫を王位に就ける為の布石だろう。」

チェスの駒を動かしながらギゼルを見た。

彼はいつも通りに

「布石だろうと破綻するものだよ、ユーラム君。」

底の見えない笑みを浮かべる。

きっとギゼル君はリーシャ様を王位に就かせる事だろう。

ファールーシュ王子殿下がどう動くか、リーシャ様の未来の鍵は彼が握っていると思うのだ。

「チェックメイト。」

僕のクイーンがギゼル君のキングを制した。

盤上で踊るチェスの駒は、まるでファレナの縮小図。



ギゼル君、君は何を欲しているんだい?





prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -