君に誓う心は


-SIDE ギゼル-


太陽宮の離れに彼女はいた。

その存在自体を隠すかのように彼女はひっそりと王宮の中で育てられていたのだ。

これから数年後、アルシュタート陛下に姫が生まれるだろう。

この数年が勝負どころだ。

私は貴女をファレナの王女にしてみせる。

美しく大輪の花々が庭園を賑わせる中で、彼女は向日葵を愛おしそうに見詰めていた。

手折る事も容易いだろうにただ彼女は眺めるだけ…

私の視線に気付いた彼女が向日葵に向けていた笑顔を一瞬で消し、王族としての仮面を被って

「此処は禁域であったはずだが、私の記憶違いだったか?」

立ち去れと促した。

本来であれば禁域に足を踏み入れれば首を落とされても致し方ないのに彼女は平然と眼を瞑るという。

その優しさは、あの頃となんら変わっていなかった。

「いいえ、リーシャ様の仰る通り此処は禁域で御座います。お恥ずかしながら私が迷ってしまったのです。」

恭しく頭を垂れ、臣下の礼をし謝罪をすれば彼女は一瞬だけ驚いた表情(かお)をした。

「太陽宮は広い。この日輪宮に迷い込んでしまうのも致し方ない事かもしれない。」

私もたまに迷子になると少しだけ面白そうに笑みを零す彼女を愛おしく思う。

私は彼女の興味を惹きそうな話題でその場を盛り上げた。

彼女付きの侍女が呼びに来る頃には私に対する警戒心が少しばかり薄まっていた事に私は嬉しく思う。

日輪宮という檻へ戻る際に彼女は振り向き

「エルリムの者よ、また逢えるだろうか?貴方から見たファレナの話を聞いてみたい。」

人差し指を唇に当て内緒でと告げる彼女を愛おしく思った。

きっと彼女は私が誰なのかを知っているのだろう。

その上でファレナという国を織(し)りたいと願うのだ。

「リーシャ様、喜んで私の視るファレナを話ましょう。」



青年は頭(こうべ)を垂れる。

最愛の人よ、ファレナの頂(いだだき)を用意しよう。

今度こそ、貴女に未来を…




-SIDE アレニア-


私には解る。

彼女こそが私の主であるリーシャ様だということを!

例え容姿が違ったとしても私がリーシャ様を間違えるはずが無い。

繰り返した過去の中でリーシャ様はアルシュタート陛下とフェリド閣下の子供だった。

しかしこの世界の彼女は今までの世界には存在しなかったシャスレワール様の娘であるファントーム様の娘という。

前の世界ではシャスレワール様にはハスワール様しか子供はおらず、ファントーム様という存在は無かった。

ハスワール様と違いリーシャ様はまだ幼く、アルシュタート陛下に姫君が誕生していない為、王位継承権がある。

私はギゼル様の口利きで、リーシャ様の騎士になれた。

女王騎士ではない、リーシャ様直属の騎士。

もう数年経てば傾国の美と謳われるだろう射干玉(ぬばたま)の髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ顔(かんばせ)こそリーシャ様によく似合った。

ファレナの国と民と家族を想う強い瞳だけは変わらずに私はまた魅了される。

「貴女が私の騎士になるのだな…」

王位継承権を持つとしても王宮の隅に追い遣られている身に仕えるという事は、今のファレナでは出世街道から外れていると名言しているも同然なのだ。

きっとリーシャ様はそれを気に病んでいらっしゃるのだろう。

「身内殺しを平気で行う女王家。国を作った最初の人が女と云うだけで王子には継承権を持たせない悪習。私はこの地に住まう民の暮らしを知らぬ。私に王位継承権はある。なれど無知な子供を次期王にする国がおかしいと思うのだ。」

あの日、あの時と同じ台詞(言葉)を紡ぐリーシャ様。

「無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり…」

リーシャ様が教えて下さった言葉を紡ぐ。

「遠い昔、私に教えて下さった方がいます。リーシャ様はそれを実践出来るお方です。アレニア・ハウエルはリーシャ様の騎士でありたい。どうか、許すと…」

古(いにしえ)の騎士の忠誠をした。

リーシャ様の騎士であることを“許す”と告げられた二度目のその日、私は神に感謝する。


私は過去(昔)も現在(今)も貴女の騎士。

貴女の為に紡ぐ未来を切り拓く剣となりたいのです。



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追記

リーシャさんの母の名前はle fantôme 幻 (ル ファントーム)からきてます。

ギゼルをエルリムと称したのは座天使の支配者(エルリム)から引用しました。

アレニアの家名を捏造してます。

だってゴドウィンの後ろ盾があるんですもん。

きっと貴族の出なのかなーと思って…



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